居酒屋のカウンター席で、生温かいかいおしぼりを目に当てて、わんわん泣いていた。2日前にずっと好きだった人とセックスして失恋したからだ。
友達に「あいつのことは、彼とはじめて会う前からずっと好きだった」と涙ながらに言ったら笑われた。そりゃそうだ。自分でも大分、頭がおかしいと思う。

アプリで知り合った彼に、私は会う前から既に惚れていた

彼とはマッチングアプリで会った。はじめて写真を見たときから、漠然ともう寂しかった。アプリの中にはイケメンでタイプの男がたくさんいたけれど、彼の写真だけ、マッチした男たちのフィードの中でうっすら光っていた。
薄い糸が切れないように、メッセージを続け彼から「飲みに行きませんか?」と誘われたときは、しばらく甘いものは止めようと、勝手に決意していた。既に、馬鹿みたいに惚れていた。

会う前から浮かれていた私は、はじめましてで「結婚しよ」と言い、飲みすぎてぶっ潰れ、路上で2時間吐き続け、終いには警察に連れて行かれた。同じく酔っ払った彼は吐き潰れる私を指差し、「今日はじめて会ったんですけど、まじ最悪っす」と路上で知らないキャッチの男たちに愚痴っていた。
朝5時、警察署を出て、死ぬほどの後悔を抱え電車に乗った。相当、イタくてやばい女だ。
そんなやばい女だから。私はもう1回、彼を飲みに誘っていた。

彼は体の関係しか求めていない「ドヤリモク」。私はあっさり寝た

2回目は彼の方が酔っ払った。そして、彼がセックスすることにしか興味がないとはっきり気づいた。外見しか褒めてくれないし、すぐに手を握るし、やたら酒を飲ませようとするし、金がないアピールをするし、ギャンブルが好きだと平気で言った。
私の仕事のこと、好きな映画、内面にはまったく興味がなかった。どんなアホでも彼が身体にしか興味がないことが分かるような、ドヤリモク。
虚しかったけれど、もう好きだったから、手遅れだった。私はヘラヘラと手を握られ、御礼のLINEを送り、後日彼がおすすめしてくれた映画『佐々木、イン、マイマイン』を観た。

映画の感想を送って、無視されて9ヶ月が経った。やっぱり、まだ好きだった。だから、セックスする覚悟でもう1度彼を誘った。あっさり飲みに行って、あっさりセックスして終わった。する前に「思ったより好きになっちゃったからやっぱりできない。振ってくれる?」とお願いしたら「可愛いから振れない」と言ってわざとらしく困ったような顔をした。
本気の言葉にも取り合ってくれない、性欲だけの潔さに、もうセックスするしかないなと服を脱いだ。自分がこの恋を吹っ切るためにも。

1回寝てもよくなかったけど、私は想像以上に彼に執着してしまう

結果、セックスは特によくなかったし、やっぱり思いやりなんかなかった。モノとしてしか見られてないこととか、こんな感情を抱えてるのが自分だけということとか、色々なことが、ひたすらに悲しくなって、私は泣き続けた。
ベッドの横にティッシュの山を積み重ね、どこにもいたくなくて駅前を3時間かけて放浪し、風呂でおしっこをして、虚な目で証明写真を撮った。相当、やばい人だ。おかげで、過去最低体重を更新した。

なんであんな奴が好きなんだろうと考えても、もう分からない。執着だろうか。顔も好きだけど、顔だけじゃない。だからといって中身でいいところなんてこれっぽっちも見つからない。何も、知らないから。
ただ、趣味のことを話しているときの純粋な顔、ときどき本音を言うときの本当っぽい目をもっと傍で見てみたかった。連絡先も消したから、何も伝えられないけど、最近元気がないって言ってたから、元気になってほしいし、健康でいてほしいな。
3回会って、1回寝ただけの女がこんなこと言うのは、心底気持ちが悪いけど。想像以上に彼の幸せを願ってしまっている。