イベント大好き人間ということもあって、毎年楽しいクリスマスを過ごしている。
時には彼氏と。時には友人と。時には職場の仲間と。
毎年いろんな形で幸せを作り上げているが、いつが1番幸せだった?と聞かれると、自信を持って「大学1年生のクリスマス」と答えることが出来る。

どこ行くの?私の手を握り彼が向かったのは、推しのコンサート会場

試験前の徹夜続きが悪かったのか、クリスマス直前に風邪を引き、そのせいで声は出ないわ、頭はぼーっとするわ、最悪のコンディションでクリスマスデートの日を迎えた。
試験も終わり、同じ大学の彼と正門で待ち合わせ。
ICカードを渡され、「時間ないから行くよ」と、私の手を握り早足で歩き出す。
「どこ行くの?」と聞いても答えてくれず、「降りたら走るで」と急ぐことしか伝えてくれない。

時刻も15時過ぎと、イルミネーションを見るには早すぎる。
全く見当のつかない私は連れられるがままに走り、1時間ほどかけてついた先はなんと推しの韓国グループのコンサート会場。本当は行きたかったけど、クリスマスは一緒に出かけようと言った彼のために諦めたコンサートだ。

同世代の女の子達がうちわを持ってぞろぞろと歩く列に混じって、彼はどんどん進み、コンサート会場の入り口へ進む。
「ついに頭がおかしくなったのか?」
本当に申し訳ないけれど、心の底からそう思ってしまった。
デートだというのになぜ彼は私の推しのコンサート会場へ向かっているのか、チケットもないのになぜそんな凛々しい顔で歩いているのか。
小走りで彼についていきながらそう考えていると、なんと彼のポッケからチケットが。

視界の中には推し。横で手を握るのは彼。こんな幸せなことってある?

「うわあ」
多分その年で1番大きい声を出したと思う。現実的には喉から空気がスーっと抜けただけなのだけど。
びっくりやら現実を消化しきれないやら、嬉しいパニックに陥る私の頭の整理を待たず、あっという間に暗転してコンサートが始まり、「Happy Merry Christmas」と推しが登場。

視界の中には大好きな推し、横で手を握るのは大好きな人。
こんな幸せなことってある!??
前を見て、横を見て、幸せだと心の中で叫んで、また前を見て。
後にも先にもあんな幸せな時間は味わったことがなかった。
終わった後、「人生であんなに女の子に囲まれるのはもうないな、ハーレムを味わえて幸せだわ」なんて彼は冗談を言っていたけれど、私の方が何百倍も幸せだと言い切れるほどに幸せなクリスマスだった。

大好きな推しを前に出なかった声は、きっとサンタさんからの贈り物

未だにこの時期になると毎年思い出してはニヤけてしまう。
声が出れば、推しの名前を叫べたのに。
声が出れば、いつものように狂ったかのように掛け声ができたのに。
当時はそう思っていたけれど、豹変したかのように叫ぶ姿や、推しを名前ではなく少し痛めな愛称で呼ぶ姿を見たら、冗談すら言えないぐらいに彼にドン引きされていたかもしれない。
不本意ながら、推しを見てニコニコして音楽に合わせて手を叩くぐらいの「可愛いヲタクの彼女」の姿でとどまっていたおかげで、楽しい時間と引き換えに大切な彼を失わずに済んだのかもしれない。
そう思うと、大好きな推しを前に出なかった声は、サンタさんからの配慮だったのかもしれないと思う。