高校生の頃に居酒屋でバイトをはじめてから約10年間、相も変わらず私は飲食業界で仕事を続けている。
現在私が働いている居酒屋は昔ながらの、個人経営の小規模な串焼き屋で、チェーン店で居酒屋バイトデビューした私にとっては今の店の緩い雰囲気が心地良い。
クリスマスは仕事をする日。その日、居酒屋に来るお客さん達
そんな私にとって、クリスマスとは仕事をする日と毎年決まっている。
大概古株の社員さん達は家族サービスで休みにしたがるし、アルバイトの学生達も恋人持ちは仕事してる場合じゃないと早々に1ヶ月くらい前からシフト相談が行われる。
あくまで私個人の考えとしては、クリスマスとは言いつつも結局はいつもと変わらない一日に過ぎないなんて事ない日、という捉え方だ。
そんなこんなで特段クリスマスにこだわりがない私は、毎年12月24日と25日だけは仕事をし続けている。ちなみに、クリスマスに居酒屋に来るお客さんは割と少ないが、濃いキャラクターが勢揃いになる。
偏見も多少あるが、まず一番多いのが一人のお客さんだ。常連のお客さんほど、こういう日には来ず、初めて来店してくれるお客さんがほとんどだが、大抵一、二杯呑んでサクッと帰るパターンが多い。
しかも夜のオープンをしてすぐくらいの早い時間から、という感じだ。普段来ない店だし、世間は浮足だっていてどことなく居心地の悪さみたいなものを感じているのかもしれない。
友人同士やカップルで。クリスマスでも居酒屋には賑わいがある
その次に多いのが、友人同士のお客さん。予約なしで来る人達は大体ニ、三人で、大学生だろう顔ぶれだ。このパターンはやけ酒のような、とにかく食べることよりは酒、みたいなハイスピード飲みが特徴で、最後の方はふらふらな人達もいるくらいだ。
何軒も飲み歩いて、最後はカラオケで締めかなと考えると楽しそうな感じがする。最後は、少ないがカップル。正直、近くに有名な洋食のレストランが何店舗もあるので、クリスマスに予約なしで私が働いている居酒屋に来るのは中々珍しい。
それでも、付き合いが長そうなカップルや飲むのが好きなカップルは居酒屋に来る。稀に、ものすごく喧嘩しながら店に入ってきたカップルもいた。
来てくれたお客さん達に共通して言えることは、店に入った瞬間にホッとしている気がするということ。
クリスマスの日に仕事をし始めて、はじめのうちはそれに気が付かなかった。しかし、ある年に店長が仕事終わりにその日シフトに入っていたメンバーのうち私含めニ、三人を連れて、店長行きつけの居酒屋に連れて行ってくれて、それを肌で感じた。
私が働いている店よりも年季が入っているその店は、もちろんお洒落でもなければ特別に何かが美味しい訳でもない。だけど、確かにクリスマスにその店を求めてやってきているお客さんはいるし、賑わいはある。
束の間のイベント感。非日常の中の日感を求めて仕事をしたい
店に入って、おしぼりをもらって、軽く料理をつまみながらお酒を流し込んだ途端に「あぁ、日常」と思った。けれど、この日常感はクリスマスというイベントにかこつけて色めきだっている非日常の中で味わうからこそ沁みるものであり、普段感じている日常感とは異なるものだろう。
この感覚はなんとも言えず、私の中で深く深く身体の芯の底にまで残っていった。駅を抜けて、喧騒を抜けて、商店街の端の方にある私が働いている居酒屋は、いつもと変わらない日常を表している。
メニューもクリスマスだからと言って変えないし、いつも通りのお酒とおつまみだ。だからこそ、それが心地良い人には沁みるし、用が無い人はそもそも見向きもしない。
クリスマスが終わると一気に年末が押し寄せる。束の間のイベント感を濃縮したようなクリスマスが、密かに私も好きだ。だから私はこれからもその非日常の中の日常感を求めて、クリスマスには仕事をし続けていることだろう。