まさか返事がないなんて思わなかった。これじゃ私がふったのかふられたのかもわからない。

二件目の居酒屋さんの個室で人生初のキスをした

高校を卒業して4年目の部活のOB会の後、当時部長だった一つ上の先輩と飲みに行こうということになり、二件目の居酒屋さんの個室で人生初のキスをした。大学生なんてみんなお酒の勢いでそういうことをしているだろうし、何よりもハタチを超えてそんな経験の一つもないことに焦っていたから。帰ってからLINEは続いた。

「ちゅーしたらだいたい他の男と付き合ってるよね ボクの周りの女子」
「先輩やばいですね かっこよかったのになぁー」
「その顔文字はもうワンチャンない感が半端なくて」
「わんちゃんあったら付き合ってくれるんですか?笑」
「付き合ってほしくない子を 飲みに誘わない」
「そういうの真に受けちゃうんでやめてください笑笑」
「付き合って!!」
「しらふでも言ってくれたらいいですよ!!笑」

って言っていたのに、焦っている私は24時を回った居酒屋さんのカウンターであっさりオッケーして、またキスをした。初めてできた彼氏だった。

私はずっと「先輩」と呼び、先輩は名字で私を呼んだ

先輩は変わっていた。いつも私のことをかわいいかわいいと言って、駅のホームで吐いた私にもキスをした。クリスマスの時期にはイルミネーションなんてド定番なものを見に行っちゃって。クリスマス当日も会えることになり、ドライブをして焼肉を食べて、クリスマスっぽくないことをしているのが長く付き合っているカップルみたいだなって嬉しかった。でもずっと“先輩”だった人をいきなり“彼氏”にするのは、恋愛経験のない私には難しかった。そして先輩は変わっていた。下の名前で呼ばれるのが嫌いらしく、私はずっと「先輩」と呼んだ。先輩は部活の時と同じように名字で私を呼んだ。

バレンタインにケーキを焼いた。当日映画を観ようと待ち合わせをした時間は、開始直前の夕方だった。一日空けておいたんだけどな。先週初めてホテルに行って、髪まで洗って、痛いと言って拒んだの、失敗したかなあ。ああいう時はどうするのが正解だったのだろう。
塾講のバイトをしている先輩の2月は忙しかった。夕方からはバイトがみっちりで、バイト前にランチを一緒に食べた。塾の生徒からバレンタインによくチョコをもらうらしく、「とりあえずゴディバで返してる」なんて話を聞きながら、ナンやオムライスをほおばる。食べるのが遅い私が食べ終わると、先輩はすぐに席を立った。
ホワイトデーは夜に駅で待ち合わせをして、焼肉屋さんに行った。お店に向かう途中の道でマカロンとゴディバをもらった。お店から出て、じゃあ、と帰ろうとする先輩を引き止めて居酒屋さんに入る。ビール一杯じゃ終電はなくならない。

最後くらい素直に思っていることを全部全部言えばよかった

3月の終わりに、お花見に行く約束をした。社会人になる先輩にネクタイを用意したけど、例の感染症のせいで約束を果たす前に桜は散ってしまった。それから連絡の間隔は開いていった。こういう時どうやって繋ぎとめればいいのかもわからなかったけど、それでももういいやと思った。

6月、2カ月ぶりに先輩に会った。季節外れの入社祝いに、「4カ月、幸せでした。ありがとうございました」というメッセージを添えてわたした。返事はなかった。

あの時やっぱりしらふで告白してくれるのを待った方が良かったのだろうか。私がもっと“恋愛”を経験しておけばちゃんとふってくれたのだろうか。先輩と付き合ったことは後悔していないし、ネクタイが入った紙袋を手にした先輩の「またね」に「さようなら」と返したことも後悔していない。でも最後くらい素直に思っていることを全部全部言えばよかった。

今、私は彼の名前を呼ぶ。彼もまた私を名前で呼ぶ。先輩との4カ月は、私の中でいきている。