別れてしまえばいいのにと思う。離婚してしまえばいいのにと本当に思う。
家族に実は伝えたいこと。それは、照れ臭くて、なかなか普段では伝えられない感謝の想いなんかではない。
私が物心ついた頃から、父と母は不仲だった。仲良く意気投合して会話している姿など見たことがない。
よく喋る父と何も話さない母。一見バランスがいいように感じるが、これがまた両極端すぎて相性が抜群に悪い。
喋りすぎる父と無口すぎる母なのである。愛想が悪いと怒鳴る父、それに反抗するようにさらに口を閉じる母。どちらが悪いとか、もうそういう次元の問題ではないのである。父はいちいちうるさすぎるし、母は闇を抱えたように暗い。もうこれは戦うフィールドが違いすぎて話にならないのだ。
御飯時になると、仲が悪くてもひとつのテーブルを囲い、同じ窯の飯を食べなければならない。
私は幸い一人っ子ではなく、妹と弟がいる。ピリつく食卓をいっしょに盛り上げてきた。父の機嫌を取り、孤立しないようにと母にも気を遣い声をかける。笑いに変えないとやっていけない空気を、いつも妹と弟と切り裂き戦ってきたと思っている。
私は29歳だ。もう自立した立派な大人だ。だけど未だに両親がいる空間には慣れず動悸がする。
私はどの立ち位置で、今何をしないといけないのか、両親のいる時は常に考えていたように思う。気まずくならないように、喧嘩にならないように、不機嫌にさせないように。敏感に空気を読み取ろうとして、きっと何もしなくてもいいのに、何かしないとと焦って役割を探す。
いい歳になって、親のせいにしたくないけど、私のこの今だに全く愛すことのできない性格は、確実に父と母が作り上げてくれたものだと思っている。
私は自分の性格が大っ嫌いだ。何もできない、何ひとつ大切なものを守れない、愛想がなくて、ひねくれていて、不器用な、こんな自分が大っ嫌いだ。
小さなときから、私の存在は父のためにも、母のためにもならなかった。いい子でいても、なにをしても、父は父のままだし、母は母のままで、なによりも父と母の関係がいいように変わることがなかった。その事実がより一層私の貴重な自信を吸い上げてしまった。
こんな劣悪な環境がこんな人間を創り上げるのだ。全部が全部、両親の不仲のせいだとは思わない。ちょうど私の遺伝子と育った環境がなんの因果かぴったりと合致してしまい、ひどく虚しい人間が出来上がってしまったのだ。
父もいい人だ。母もいい人だ。合わさってしまうと少し濁ってしまうが、どちらも優しくいい人だ。
だから、私は別れてしまえばいいのにと思う。離婚してしまえばいいのにと本当に思う。
なんとも心ないメッセージだが、これが私の「家族に実は伝えたいこと」である。