私の彼は、私よりも朝早く目覚める。
台所に立って朝ごはんの準備を始める。
もうすぐ完成、という頃に
「おはよう、もうすぐご飯出来るよ」
と起こしに来てハグをしてくれる。
母の機嫌を伺って喋る子だった。気持ちを消耗する幼い日々は辛くて
同棲を初めて7ヶ月。
寝坊した数回を除いては毎朝欠かしたことはない。
私は寝ぼけ眼で顔を洗い、超ド近眼な目にコンタクトを装備し、食卓につく。
「せーの!いただきます!」と2人で声を合わせて食べる朝ごはんは、とても幸せな時間だ。
私の家庭環境は少し複雑だった。
幼い頃に両親は離婚。再婚相手を本当の父だと長年思っていた私に、「違うよ」と突きつけたのは小学4年生の時の友人たちだった。
私と妹、小さい2人を引き連れた若い母親だったからだろうか。再婚については当時、相当反対されたらしい。母は「後ろ指を刺されないように」と私たちをとにかく厳しく躾けた。
厳しく躾けられた結果、私は母の機嫌を伺ってモノを喋る子になった。
今日学校であった話をする時、話をしながら母の反応を伺い「あ。これはあんまり母が好きな展開ではないかもしれない」「今日はなんだか機嫌が悪いな」と思うと話を作り替えた。
衣食住に不自由している訳ではない。世の中にはもっと不幸な子どもがいるのだろう。私はきっとまだマシだ。でも、気持ちが消耗する毎日は辛かった。幼いながらに「自分は何をしているんだろう」と思う気持ちは確かにあった。そしてその気持ちを「惨め」という言葉で表すのだということが分かったのは、もう少し後のことだった。
彼が私に与えてくれる毎日は、とてもあんしんできて居心地が良い
そんな生活が私にとっての日常だったからか、私にとって家は安心できる場所、くつろげる場所ではなかった。そしてそれは、誰しもがそうなのだと思っていた。
でも違った。
彼が私に与えてくれる毎日は、とてもあんしんできて居心地が良い。
私が取り繕わなくても、何かを頑張らなくても、彼の機嫌は悪くならない。
毎朝笑顔で起こしに来てくれる。わたしが仕事で疲れてソファーで寝落ちしてしまった時には、そっと毛布をかけてくれる。黙々と夕飯の片付けをし、しばらく経つと「疲れちゃったんだね。今日はお化粧だけ落としてもうお布団に一緒に行こう?」と促してくれる。
反対の立場の時には「なんでそんなところで寝てるの!早く布団行きなよ!」と怒ってしまう私なので、この時ばかりは激しく反省した。
私も彼のようになりたいと思った。
私が子どもの頃には知らなかった世界がここにはある。
こんな毎日を続けていけるように、私はあなたと結婚したいなと思う
こんな温かで安心できる家庭に私はいたい。
そしてそれを、彼や我が子に与えることができる側に、いつかなりたい。
彼が優しくしてくれる分、私も彼のように、彼にも誰かにとっても優しくありたい。
結婚は私にとって、その一手段なんだと思う。
未来の自分がありたい自分であれるように。
「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」
どこかのCMで流れていたこのフレーズ。
本当にその通りだなぁ、と思いながらカウンターキッチン向こうの彼を見る。
今日も彼は台所に立っている。
「お腹空いたね!もう少し待っててね」と彼が言う。
私は「こういうのって幸せだね」と返す。
こんな毎日を続けていけるように、
私はあなたと結婚したいなと思うのです。