できることなら、手放したい。見たくないし、見られたくもない。
自分の生活も他人の日常も、わざわざ開示する必要なんかなくて放っておけばいいはずなのに、どうして私たちは、こうも離れられないのだろう。いつまでも耽溺してしまうのだろう。
いっそのこと、スマホを丸ごとどこかに投げ捨てられたら、どんなに楽だろう。
きっと、誰もがどこかでそんなことを夢想しながら、今日も手のひらで、薄く汚れた端末を持て余している。

何者でもなかった自分がメディアに取り上げられ、高揚感を覚えた

何かに依存することも、視力を落とすことも、怠惰に落ちぶれることも、努めて嫌煙してきたはずの自分が、SNSに絡めとられてしまったきっかけはいつだったか。
まぎれもなく、2年前だ。
環境活動に従事するようになり、何者でもなかったはずの自分が、瞬く間にメディアに取り上げられる機会が増えた。新聞、テレビ、ラジオ、雑誌。大企業の社内イベントから、自治体の勉強会まで。あらゆる場所でお声がけいただき、目が回るような日々を過ごした。
普段は読む側、見る側、聞く側であるはずの媒体に、自分自身が映っている様子を目にしたとき、なんともいえない高揚感を覚えた。そして、他人に共有せずにはいられなくなった。せっかく取り上げていただいたのだから、よりたくさんの友人や知人にも読んでほしい、見てほしい、聞いてほしい。
私のSNSは瞬く間に、メディア掲載実績で埋め尽くされた。

もちろん、自己顕示欲に突き動かされていた側面は否めない。
しかし、どうせ発信するのであれば、何かしら影響を与えたいとも思っていたことは事実である。インフルエンサーというにはあまりに忍びないが、自分を知っている人に私の活動を知ってもらうことで、その誰かが一人でも多く、その環境活動に参画してもらえれば、それはプラスの循環を生むのではないかと考えたのだ。

実際、環境活動を通して始めた署名集めは、SNSで拡散され、全国からも郵送で届けられるほどの成果を生み出した。その上、メディアを通して私の存在を知った方から、SNSでダイレクトメッセージをいただいたり、思いがけない仕事の依頼を受けたこともあった。

いつの間にか競い合う心が生まれた「いいね」の数。脆く哀れな私

一方で、私は「いいね!」の数に一喜一憂するようになった。
私の投稿につく「いいね!」の数は平均して20ほど。多くても30。
著名な方と一緒に映った写真などを投稿すると、まれに50を超えることもあったが、そんなことはほとんどレアケースだった。
だからこそ、何でもないように見える投稿で「いいね!」の数が50以上に達していたり、盛んにコメントが打ち込まれていたり、シェア件数が多い投稿をする人を、必要以上に羨むようになった。

それが赤の他人ならともかく、下手に関係性が近い人だったりすると、なぜ私はこれだけしか「いいね!」されないのに、あの人はこんなにも「いいね!」されるのだろうかと、心は勝手に競い合うようになっていた。
これは私の個人的な分析であるが、なんとなく「陽キャ」と称される人、いわゆる陽気で明るく、人付き合いが得意で活発な人ほど、SNS空間に存在する「友だち」の数が圧倒的に多く、それにともなって「いいね!」の数も比較にならないほど積み上がっていく印象がある。
それでいくと、どちらかといえば「陰キャ」に分類されそうな私は、画面上では大義名分に裏打ちされた投稿をしておきながら、裏では他人の評価にいとも簡単に左右されてしまう、脆く哀れな人間だった。

結局自分が傷つくだけと学んでも、離れられないSNSの存在

たとえば、環境活動に関連して、その時々の時事トピックを反映させた評論を執筆することがあるが、いわゆる政治的意見と見なされるのか、SNSでは「いいね!」の数が極端に少なくなる。
何か、おかしいことを言っただろうか?ささいな表現が、万が一でも炎上してしまったら?そう考えると気が気でなく、投稿を削除しようかどうしようか逡巡し、削除する方がかえって誤解を生むだろうと、諦めにも似た気持ちで思いとどまる。

そうやって無駄な思惑が頭の中を駆け巡り、自分で勝手に投稿したはずなのに、逐一SNSを開いては落胆し、焦燥感に駆られる日々に、心身共に疲れ果ててきた。

もう、やめたい。いい加減、終わりにしたい。
かつてのように、メディアに取り上げられることも減り、誰かにシェアするほどのネタもなくなった。結局、自分が傷つくだけなら、どんなに言い訳をしても建前に過ぎないということを、この2年間で身をもって学んだはずだ。

それなのに、未だに私はSNSから逃れられていない。

全ては自分のこの手から生じているものなのだから、投稿さえしなければ、何も懊悩する必要はなくなるのに。わかっているのに、やめられない。

スマホを手にしただけなのに。
得体のしれない不信感が募る日々は、もうしばらく続きそうだ。