病気になって挫折を経験し、小さい頃からの「音楽家になる」という夢を追いかけるのをやめようか、ずっと悩んでいた。
スイスへ留学中、半年ほど日本で療養していたけれど回復は見込めず、留学は一旦、籍を残しつつ帰国という形で整理することにした。
2021年の夏、コロナ禍真っ只中の世界で1ヶ月ほどスイスに戻った。最後の2週間はスイス横断旅をして、ずっとこの先について考えていた。美しい景色を見たり、思いがけず愉快な体験をしても、打ちひしがれた悲しみが私の心を青く染めていて、何一つ良い案が思いつかなかった。
色んな感情を背負って帰国し、「夢は諦めようかな」と母に言ってみた。すると母は、兄弟達がどう考えているのかをそっと教えてくれた。
「音楽やめないでって、言ってたんよ」
兄弟達には相談してなかったのだが、続々とスイスから到着する私の荷物を見てきっと疑問に思ったのだろう。私の不在中に、その話になったらしい。父も「コロナが落ち着いたら、また留学したらいい」と言ってくれている。
家族の存在が、どれだけ私の心の支えになっているか。私の夢を応援して出資してくれる父も、気遣ってくれる母も、自由な私を許してくれる兄弟達も、感謝してやまない。私には帰る場所があって、気を許せる人たちがいる。それだけで私の生きる意味を見出せるのだ。