2年前の春、父方の祖母が亡くなった。
もう祖母の命が長くないと聞き、10年ぶりに祖母に会いに行った。その数週間後に、祖母は亡くなった。
なんだか、私は小さい頃から父方の祖母に会うのが苦手で、何かと理由をつけて中学生から祖母とは疎遠になった。
電車で1時間もかからない距離に住んでいたのに。
お経を聴きながら、数少ない祖母との思い出を思い出す。
「サンタクロースいつまで信じてた?」
この会話で思い出すのはいつも祖母の顔だった。
サンタさんからのプレゼントを祖母に見せると、思わぬ言葉が…
確かあれは、私がまだ幼稚園児だった冬。
クリスマスの朝、目を覚ますとずっと欲しかったウサギのぬいぐるみがサンタクロースから届いた。
嬉しくて嬉しくて、私は、どこに出かけるにもウサギのぬいぐるみを抱っこして連れて行った。
もちろん、お正月に泊まりに行った祖母の家にも連れて行った。
祖母も毎年、私にクリスマスにプレゼントを送ってくれていた。
その年も祖母は、プレゼントを送ってくれていったはずだ。
でも、そのプレゼントより多分、私はウサギのぬいぐるみが嬉しくて、
「見て!おばあちゃん!サンタさんがくれたの!」
と満面の笑みで見せびらかした。
すると、私が予想もしていない言葉が返ってきた。
「サンタなんていないわよ!!」
と今までに見たこともない、怖い顔で祖母はぴしゃりと言った。
私は凍りついた。
今まで私に怒ったことがなくて、いつも優しい祖母があまりに怖い顔だったので、
「サンタさんは本当にいないのかもしれない」
と私は悟った。
お葬式で思い出したのは、初めて見た、祖母の怖い顔
その日から、私はサンタクロースの存在を疑い始め、祖母の前で、サンタクロースの話は一生しないと心に誓った。
その年、祖母が何をくれたのか今では全く思い出せない。
思い出せるのは、怖い祖母の顔だけだ。
ただ自分があげたプレゼントより、サンタクロースからもらったプレゼントに喜ぶ孫が気に入らなかったのか。
東京大空襲を目の前で経験し、戦争の話や、アメリカの話はタブーで、英語を習うこともいい顔しなかった祖母だったから、ただただサンタクロースの文化が嫌いだったからなのか。
それ以降、祖母はあんなに怖い顔を見せたことはないし、なぜあの時、あんなに怖い顔で「サンタなんていないわよ!!」と言ったのか、祖母が亡くなった今では何もわからない。
そんな事を思い出していたら、あっという間にお葬式は終わった。
亡くなってから知った祖母のこと。謎は解けぬままに
その日、15年ぶりに祖母の家に入った。
久々に入った家の中は沢山の手すりが付いていた。
ちゃぶ台だったはずの居間には、テーブルと椅子と酸素供給装置が置いてあった。
私の知っている、買い物は絶対、駅のデパートで、食べきれないくらいの料理を作って、居間に並べていた祖母の暮らしと、最近の祖母の暮らしがだいぶ違ったことを、その家が教えてくれた。
その日、父は知ってる限りの祖母の生い立ちを教えてくれた。
亡くなってから知ることが多すぎた。
もっと関わっていたら少し苦手意識が減っていたかな。
サンタクロースの謎も解けていたかな。
おばあちゃん、私は今年のクリスマスもおばあちゃんの顔を思い出すよ。