一年ほど付き合った彼氏を追いかけて実家を飛び出した私。20歳そこそこの女、好きになると夢中になってしまって、止められないものだ。もちろん周囲は大反対。
「そんな男やめておけ」
「どうせ別れるんだから金かけんな」
これらは反対意見のたったの一部である。
大好きな彼と2人きりで過ごすワンルーム生活が始まった
それでもやると決めたからには、しないと気が済まなかった。
少しでも長く大好きな彼と一緒にいるため、辛かった遠距離恋愛を終わらせるため、家を借りた。遠い遠い場所に。
お金のない大学生同士だったから、ワンルームのアパートを一室。2階の角部屋である。
いざはじまった、2人きりの生活。電話ばかりで、なかなか会えなかった私たちは今まで出来なかった楽しい時間をうんと過ごした。
寝るまで一緒に映画を見たり、あれこれといいながら買い物に行ったり、親子ではどうにもならない心の隙間を埋めていたことは事実である。充実もしていたし、必要とされることに嬉々としていた。
しかし、所詮ワンルーム。上手くいかないことも、目に見えている。
1人の時間なんてものは存在しないし、一緒にいればダラダラと1日を過ごす。そんなことに段々とお互い罪悪感を覚えていた。
少しばかり忙しくアルバイトをしていた私は、早めに起きて、寝ている彼を横目に家事をする。掃除、洗濯、料理、買い物。時間を見つけては何でもやった。1人でやった。女ってだけですることが増えた。
世の中の流れが変わってきているとはいえ、向き合うは1人の男。現実は目の前なのだ。
彼と過ごす「非日常」は、いつの間にか「日常」へ変わっていた
彼は好きな時間に起きて、大学へ出向いては、夜中に帰ってきている生活だった。
さらに追い風のようにやってくる予想以上の出費。収入は大してないので、心の余裕はお金の余裕とともにすり減っていた。当たり前のような顔をして家事をしてもらっている彼の顔にも腹が立った。
人間の慣れと習慣は怖いものである。私は彼氏に当たり散らし、どんどん関係は悪くなっていった。新しい場所で好きな人との新しい生活に夢を膨らませ、大騒ぎして地元を飛び出したものの、結局たったの4ヶ月で同棲は解消。
彼と過ごす「非日常」は「日常」へと変わっていたことに、私たちは気づけなかったのだ。
この世の終わりだと思った。
送り出してくれた両親と地元の友達への申し訳なさと、あんなにうまく行っていなかったのにもう一度住みたいという気持ち。「好き」と見せかけた「自己満足」である。わかっていても、どうしても、この心情を持ち合わせていた私はなんともやり切れなくて、
「次はもっとこうしよう」
「今度はもっとちゃんと家事もするから」
「言うことも聞くから」
こんなふうに涙ながらに彼に同棲再開を乞うたが、結果は変わらなかった。
今となれば正解だと考えるが、この当時は1人寂しく泣きながらセミダブルのベッドを持て余していた。彼を消化して、立ち直るには時間がかかった。
一人暮らしの魅力に気付けた時、寂しさを埋める彼の必要がなくなった
でもその長い時間と共に私は大きなものを得た。
一人暮らしが「楽」という発見である。
洗濯は週に一度で間に合うし、洗い物を溜めても文句は聞こえてこない。掃除機だって、気が向いた時に掛ければいいし、面倒なら外食でもお惣菜でもなんでも買ったらいい。何時に帰ってきても怒られず、何時に家を出ても誰にも迷惑を掛けない。友達を呼ぶのも躊躇わなくていい。
幾つものメリットに気づけた私に、寂しさを埋めるだけの彼は必要なくなっていた。
しばらくして、私に彼氏ができた。
とても優しくて、自律している。ご飯も作ってくれるし、置いていった洋服も洗って返してくれる。私を大切にしていて、いざと言う時は守ってくれる。しかもイケメンである。
あの元カレとは真逆で私には勿体無いほど良い彼氏である。もちろん大好きだ。きっと一緒に住んでも、家事を丸投げはせずに、洗い物と洗濯物もやってくれるだろう。容易に想像がつく。
でも、なぜだが一緒に住みたいとは思わない。
元彼よ、気づかせてくれたありがとう
一人暮らし最高!!