特集:家族に実は伝えたいこと

片耳からの音が欠けていても、心はいつも母の愛情で満たされていた

家族に実は伝えたいこと

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「……え?」
「ごめん、何て?」
「すみません、もう一度いいですか?」

29年間、日常に飛び交う言葉に、何度も頭を下げて聞き返してきた。
私は3歳の頃、右耳の聴力をほとんど失い、左耳だけを頼りに生きてきた。
おたふく風邪になり、その時のウイルスが原因の可能性が高いと言われている。
ある時、私は友達と聞こえ方が違うことにふと疑問を持ち、「何で私、こっちの耳聞こえへんの?」と、ストレートに母に投げかけた。
すると、途端に母は泣き崩れてしまった。
「……もっとお母さんが早く気づいてあげられたら戻ったかもしれへんのに……代わってあげられへんくてごめん……ごめんなぁ」
私は突然のことにびっくりして、何にも言葉を返すことができなかった。その後はもう2度と、聞かないことにしようと心に誓った。

学生の頃の席替えはいつも苦手だった。電車やバスでも気を使うし、社会人になって接客業に就いても、やっぱり不便だなと感じることは多い。けれど、誰かの思いやりを感じることも多かった。
私がまだ小さかった頃、母は私の聴力が戻るように毎晩、耳のマッサージをしてくれた。
家族や親友は、当たり前のように右側を空けてくれる。
事情を知る上司からは「目を見てしっかり話を聞いてくれるのね」と言われたこともある。

片耳難聴は一見して分からないので、周囲に理解されにくく、孤独に戦っている人も多いと思う。けれど、片耳からの音が欠けていても、私の心はいつも母の愛情で満たされていた。

「昔の自分を責めんといて。いつも1番の味方でいてくれて、ありがとう」
母が泣いたあの日、私はこう伝えたかったのだ。

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