「そういえばさ、昔一緒に行った占いで『運命の人といつか名古屋で再会する』って言われてたやんな」
ある日曜日、私は友人のB子とカフェでランチをしていた。「え~そうやっけ?」私は食後のコーヒーを、手にとって緩んだ口元を隠した。「C君、いま名古屋にいてるらしいで」とB子は言った。B子は、私が彼の事を好きだったことを知っていたのだ。
高校生の頃、私はC君のことが好きで、彼も私のことが好きだったけど
大学を卒業後、3年半私は名古屋に転勤していた。ある事情で仕事を辞め、大阪に戻ったのだ。B子とランチの後、自宅に着いてから、その彼のことが段々と気になってきた。埃が積もった卒業アルバムを手に取り、パラパラと捲る。
高校生の頃、私は同じ部活のC君のことが好きだった。毎日メールのやり取りをして、食事に行ったり、デートをしたり、半年経ってついに告白をしてくれたのだ。しかし、私は首を縦に振ることができなかった。
なぜなら、その告白のちょうど1週間前、私の親友から「C君のことが好きだ」と告白されたのだ。10年経った今でも、どうしたら正解だったのかは分からない。「10年前か…。いやぁ無理よなぁ。もう一回会ってみたいとか」ため息とともに吐き出した言葉とは裏腹に私は一通のメッセージを送ってしまった。
C君の返事は、想像以上に明るいものだった。約3ヶ月「おはよう」から「おやすみ」まで、毎日のように連絡を取り合った。私は高校生に戻ったように、返事が来る度に一喜一憂する日々を過ごした。
彼が「運命の人」だったら…なんて夢見て、名古屋まで会いに行った
その3ヶ月後、名古屋で再会した。正確にいえば、口実を作って会いに行ったのだ。彼が本当に“運命の人”だったらいいのに…なんて夢見て。
新幹線を降り、待ち合わせの時計台へ向かう。10年ぶりの彼は、見慣れないスーツ姿に眼鏡をかけていた。お互いに少し緊張しながら、彼が予約してくれたご飯屋さんへと向かう。思い出話に花が咲き、その日は早めに解散した。
次の日も会う約束をしていた。彼が好きなアーティストをコンセプトにしたお店があったので、そこへ向かうことになった。初めて乗る路線バスに揺られ、随分遠くまで来た。あいにく、休業日だった。「私が提案したのに…ごめん」泣きそうな私に「大丈夫、そんな顔すんなって!」と、お店の前で一緒に写真を撮ってくれた。
その後、近くの神社でおみくじを引いた。鈴守りが付いたおみくじで、私が紫、彼が青色の鈴だった。「このおみくじ見て。ラッキーカラーお互いの色やって。」と私を励ますかのように、笑う彼のことを、やっぱり優しいなと思った。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。新幹線の改札口まで見送ってくれる彼を見た時、何となくこれが最後なんじゃないかと心のどこかで感じた。
10年前の「彼の恋心」も今の「私の恋心」も…上手くいかなかった
新幹線が大阪に着いた時、私の気持ちもどこかへ辿り着き、気付けば彼に電話を掛けていた。
「…もしもし?どした?」
「あの…無理なの分かってるんやけど」こんな前置きするくらいなら、言わない方がよっぽどマシだ。しかし、意思とは反して口が勝手に動く。
「…伝えときたくて。やっぱり……C君のこと好きやと思った。あの時も。ほんまは好きやった」と言った。
2人の間を遮るように吹く風の音が、電話越しに聞こえた。
「……ごめん。今誰とも付き合う気がなくて。遠距離になってまうし、頻繁に帰ってこれへん。幸せにできひんかも。ほんま、ごめん」と言われた。結果は分かってたけど、やっぱり言わなきゃ良かった。
「なんか…上手くいかんなぁ。俺が好きやった時は振られちゃって、今、こうして告白してくれるのに応えられへん」
「ううん…ありがと」
10年前の私が、彼に向けていた無垢な恋心は、いつしか真っ黒な執着心へと色を変えていたのだろう。彼も、それに気付いていたのかもしれない。
彼の困ったような笑顔を思い浮かべながら、まだ水溜りが残る歩道橋を歩いた。あれから2年経った今、彼に“幸せにしてほしい”なんて思わない。
でも、“幸せになってほしい”心の底から。そう願えるようになった私は、私だけの色を纏い、今日も幸せに生きている。