「ちょっとした旅行だね」
サークルの先輩にそう言われたことがある。

地元埼玉から往復四時間強をかけて都内のインカレサークルに参加

自分は東京都内の大学のインカレサークルに所属していて、本籍を置いている大学は地元、埼玉にある。しかも、群馬寄りだから東京へのアクセスはとても悪く、サークル活動が行われる東京都内まで往復四時間強かかる。
旅だと思ったことは一度もない。特に観光もしないし、目的はサークルの練習だけだからだ。
でも、先輩に東京までかかった時間を教えるとびっくりされる。そして出てきた言葉が「ちょっとした旅行」だ。

確かに、自分にとって東京に行くまでの道のりは旅支度をしているようなものだ。
朝早く起きて、歯を磨いてシャワーを浴び、顔を洗ってメイクを施し、身支度を整えてカバンに必要なだけの大荷物を詰め込んで駅に向かい、そこから電車に乗って片道二時間強をかけ、やっと練習が始まる時間に間に合う。
他のメンバーはほとんどが東京に住んでいて、場所や時間に余裕があるからか自分よりもラフな格好で来る人もいる。
彼らを羨ましいと思う事もあるが、東京に行くこと自体が「旅行」なのは地元に住んでいる自分の特権だと考えると、幾分か前向きになれる。

一緒にサークルに入った親友と会うことも東京に行く楽しみのひとつ

東京に通うようになってから、色々な人に出会った。特に大きかったのは、SNSでしか知り合ったことのない人と実際に対面で会えたことだ。サークルのメンバーも勿論である。
その中でも、サークル内で親友になれた女の子との出逢いは大きい。

初めて会ったのは、サークルが本籍を置いている大学の学園祭。当時高校生だった自分はサークルのパフォーマンスを観て、「大学生になったらこのサークルに入りたい」と憧れていた。ステージが終わった後、たまたま隣に居たその子は自分から話しかけてくれて、意気投合の後「一緒にサークル入りましょう!」と言ってくれた。

約束通り、自分とその子は大学入学と同時にサークルに入った。だけど、コロナの影響でオンラインでしか会えない日々が続いた。コロナが落ち着いてからは一緒にご飯を食べに行ったり、メイドカフェに行ったり、同じ趣味を持っている者同士で何かをするのがこんなに楽しいとは思わなかった。
どちらかが悩みを抱えていれば、必ず相談をしている。その子に会うのも、東京に行く楽しみのひとつだ。

歓迎してくれる優しさが旅行の醍醐味。東京までの小旅行を楽しみたい

それから、東京に行くとサークルのメンバーからはよく「遠いのにわざわざ来てくれてありがとう」と言われる。それが嬉しくて、旅支度を頑張った甲斐があったと実感する。

わたしに旅が必要な理由は、どんな場所であれ歓迎してくれる皆の優しさだ。東京に行くのだって、自分にとってはちょっとした旅行。地元では見かけない光景を見たり、違う場所に住んでいる皆の異なる考えや価値観を知ったり、それを受けて皆の優しさに触れることが、何よりも「旅行」の醍醐味なのだ。

コロナ禍が収束したら、やりたいことはたくさんある。今はまだ、東京まで安心して旅行には行けないけれど、自分の身を守りつつ、往復四時間強の小旅行を楽しみたい。