私は、とある小売店で働いていた。
ブランド名を聞けば『丁寧な暮らし』が思い浮かびそうな、服や雑貨・文具にカレー・家具や家まで売っている店で、日常使いするにはちょっとお高いイメージがついている。だけど、ペンは90円だったりノートも5冊で199円だったりと、日常に根ざしたものは安くなっている。

ギフト包装でレジから抜けられないほど忙しいけど、この季節が大好き

そんなわけでクリスマスが近くなると、贈り物をする人がどっと増える。文房具は安いから学生が求めやすいし、家族に贈るのにピッタリな靴下もよく買われていた。ちょっと豪勢な贈り物になると、セーターと服飾雑貨の組み合わせとかカレーの詰め合わせが人気だ。

クリスマスも間近となると、ギフト包装でレジから抜けられなくなることもしばしばだった。とても、とーっても忙しいが、私はこの季節が大好きだった。

チン、チンとレジのベルが二回鳴らされると、『ラッピング』か『お客様対応』の応援要請である。私は他のバイトさん達に「忙しいよねえ」と言って、わくわくしながらレジに入っていた。

まず、会計の終わった買い物かごの中を確認して、適当な大きさの紙袋を持ってくる。これは大きすぎても小さすぎてもダメ。それから商品の値札を隠して、正面を確認しながら袋に入れる。贈り物で値段が分かることほどがっかりすることはないから、ここは細心の注意を払う。
仕上げにシールを貼る。それだけのことなのに、私はとてもドキドキする。

贈り主と贈られた人の顔を想像しながら、ラッピングをするのが楽しい

おつまみ系のお菓子が多くて、紳士サイズの靴下が一緒のかごに入っていたら『お父さんへのプレゼントかなあ』と想像をしたり、有料の布の袋のラッピングで婦人のセーターを頼まれたら『彼女さんへのプレゼントかなあ』と思ったりする。
ミニサイズの色鉛筆やカラー筆ペンと落書き帳のセットなら『ちっちゃいお子さんかなあ』と想像は広がる。
親戚の子どもたちに贈るのかなって思うくらい、たくさんのラッピングを頼むお客様もいる。

贈り主と、贈られた人の顔を想像しながら、ラッピングをするのが楽しかった。
「おまたせしました。番号札1番でお待ちのお客様ー!」
そう言って1番の番号札をお持ちのお客様に、ラッピングをした商品を渡す。

ラッピングをしていたときの予想通り、お母さんと子どもたちが贈り主だと、心がほっこりする。小さい子どもが持ちやすいように、ちょっとかがんで目を合わせて「はい、どうぞ」とすると「ありがと」って言ってもらったりもした。
ありがとうございますと言うのはこちらの方なのに、ちょっとこそばゆくなって、「喜んでもらえるといいね」って言いながら見送った。

あの店で働いている間、私はしがない、幸福なサンタクロースだった

しきりに袋の中のラッピングを覗きながら帰っていく母子を見ていると、お父さんは絶対喜んでくれると思うって、幸せな気持ちをおすそ分けしてもらった。
どのラッピングも、店員の私たちは贈り主しか会わない。けれども、贈り先が笑顔になることも見えている。だから、私はラッピングの多いこの時期が大好きだった。

もちろん数が多くて、難しいラッピングが続く時は「うわああ」って思う。それでも、贈る人も贈られる人も幸せになれるように、一生懸命ラッピングをした。
同じタイミングでラッピングをしているスタッフがいると、かわいく見えるリボンの長さを教えてもらったり、箱に入ったバウムクーヘンがきれいに見える色の並びを一緒に考えたりした。贈答用の箱を、紙で完全に包む方法をバックヤードで練習したりもした。

すべてはプレゼントをもらって、包みを開いた一瞬の笑顔のために。
あの店で働いている間、私はしがない、幸福なサンタクロースだった。