「はい。この日、点数悪い人集めて補習します」
そう言われて渡されたメモに書かれた日時は最悪だった。
一年で一番キラキラした日、そう、クリスマス。
そんな日に、嫌いな先生の補習という予定が舞い込んだ。当時高校二年生、いわゆる華のJKであった私は打ちひしがれた。
宣告されたクリスマス補習。他のメンバーたちと楽しもうと思った
先生から返された私のテストの点数は、サンタさんの服のように、トナカイのお鼻のように真っ赤な……赤点、しかもこの次の学年末テストで挽回しなければ、単位を落とすかもしれないというギリギリのラインまで来てしまっていた。結構笑えないのが事実であった。
そういう訳で放課後に準備室に呼び出され、理路整然と怒られていた私は少し泣きそうになっていた。そんな私に気づいたのか、急に口調が柔らかくなり、出してきたメモがクリスマス補習宣告であった。全然優しくない。
その帰り道、ライトアップが始まった道を歩きながらため息をついた。恋人たちが手を繋いで歩いている。
はあ、私もクリスマスは彼氏と過ごしたかったのに……あ、でも私そういえば今彼氏いないじゃんと自分で突っ込んだ。頬に触れた風が冷たかった。
クリスマスパーティの予定を立ててはしゃいでいる友達たちに嘆きの文句を言いながらも、クリスマス当日になった。私はもうこうなったら他の赤点を取ったメンバーたちと仲良くなって、クリスマス補習を楽しんでしまおう!というノリになってドアを開けた。
嫌いな先生と一対一の補修のはずが、高鳴る胸と、熱くなる体温
「やっときましたか。じゃあやりますよ」
少し広めの講義室には私の嫌いな先生以外誰もおらず、私と先生の二人だけだった。
「?」という顔を私がしていると、先生は早く一番前の席に座るように言ってきた。
「あの~、他の人はまだですか?」と聞いてみると、「あんな点数取ったのはあなただけですよ」と言われた。え、点数悪い人みんな集めるんじゃなかったの!?と心の中で突っ込んだ。動揺した私をそのままにして、先生は目の前の教卓の上で参考書を開き、黒板に淡々と公式を描き始めた。
嘘でしょ。なんで嫌いな先生と一対一で補習を受けなきゃならないの、しかもクリスマスに……心の中の私が膝から崩れるのと同時に、力なく席に座った。
そもそもなぜその先生が嫌いかと言うと、真面目で、静かに淡々と怒ってくるのが怖いからというありきたりな理由だった。先生が部活の顧問である男子生徒からも恐れられていた。
だが、頭の良い生徒たちからは、教え方が分かりやすくスマートだと評判だった。そして女子生徒からは、30代未婚で色白で少し甘い顔をしていたのもあってファンの子たちがいた。これは後から知ったことだけど……。
「はい、72ページの2番の問題を解いてください」
ぽけーっとしていた私に先生が聞いてきた。慌ててノートを開くと盛大に筆箱を落としてしまった。拾おうとしていると先生もこっちに来て、一緒に拾ってくれた。
その時私が、机の下に隠していた問題解答集の存在がバレてしまった。先生の手が伸びてきた。少しニヤリとしてから、「没収です」と言って取り上げられ、そのまま隣に座られた。
それからどうにか問題を解き終わって、ノートを渡してから先生を盗み見た。足を組んで右手で頬杖をつきながら少し気怠げに私のノートを見ている先生に、なぜか胸が高鳴るのと体温が上がるのに気づいた。
たぶん嫌いな問題を解きすぎて頭がどうかしちゃったんだということにした。
不覚にもキュンとした先生のギャップ。この感情がずっと続くなんて…
「この問題ちょっと難しくてわからなかったです」と私はその胸のざわざわをかき消すように言ってみた。そうすると先生は、どれどれと言って、「ああ、これ俺でも難しいから大丈夫だよ、がんばったね」と言った。
私は心の中で驚きの声を上げた。
「まってまってまってこの人、一人称俺とか言うタイプなの!?え、みんなの前ではいつも僕はなのに……てか、がんばったね?え?あんな泣かせるまで私を怒ったあの先生が!?」
不覚にもキュンとしました。10代女性、という文を当てがうしかない状況と自分のちょろさに思いっきりよろけた。
一通り教えてもらった後、帰り際に感謝を伝えると、「いつでも準備室来てね、次は年明けのこの日に」とまたメモを渡された。
調子に乗って「先生、今日クリスマスですけど、私の相手なんかしてて大丈夫だったんですか?」と聞いた。そしたら、「この後も部活の練習見るし、こうやって勉強が大変な生徒もいるし、忙しいからプライベートは何もないよ」と少し照れて言っていた。
この人ギャップやばい……誰でもいいから捕まえて思いを叫びたくなった。
「じゃあお疲れ様、メリークリスマス」
そう言って私に手を振ってきた先生に、講義室を出た頃には完全に恋に落ちていた。そしてこの恋が続くとは思いもしなかったのです……to be continued.