彼は暴言を吐かれたことに疲弊して、私を一切遮断。そのまま海外へ

12年間好きだった人がいました。
高校の同級生で、いたずらやちょっかいをかけ合う、そんな関係でした。
でもずっと好きでした。
彼は3年間絶え間なく、彼女が何度か変わっていました。
それを私はどんな顔で聞いていたのか忘れたんですが、多分笑っていたと思います。
授業中に居眠りする彼の上下する背中と、あたたかくて柔らかそうなシャツを真後ろの席からただ眺めていました。

大学生になって、彼はまた新しい彼女ができました。
それぞれ別の大学に進んでも、私たちは頻繁に連絡を取り合って、たまに会いました。
もちろん彼の彼女は私から欲しい情報を抜き取るけど、私のことを嫌っていました。
彼氏の女友達は彼女からすると、そうですよね。嫌な女だったと思います。

その後彼と喧嘩して、7年ほど連絡を断ちました。
彼が浮気をしたり彼女を無下に扱うようになったと彼女から連絡が来て、泣きつかれたからです。幼かった私はどうして良いかわからず、勢いに任せて彼を思いっきりなじりました。自分のものにならない彼のやっていることが許せなかったんです。
彼は親友から暴言を吐かれたことに疲弊して、自分自身から私を一切遮断しました。
そのまま、海外に留学へ行ってしまいました。

私は彼を忘れました。意地を張って、気にしてない素振りをしました。
ある夜、知らない番号から電話がかかってきました。
彼からでした。留学先の大学から。私は嬉しかったのに拒否しました。
元気?眠れてる?ご飯は食べてる?勉強はどう?生活は慣れた?友達はできた?意地悪言ってごめん。大好きだよ。
恥ずかしくて意地を張って、蓋をして出た言葉が「ごめん、やめて。無理」でした。

恋愛感情はもうなくても、彼を守りたいという気持ちが強くて

何年か経って、彼が結婚して日本に帰ってきていると人伝に聞きました。
相手は留学先の国の可愛らしい女の人でした。
そっか。
何か感じる前に心のシャッターを下ろしたことを覚えています。
その時私にも大切な彼氏がいました。
でも、その人にも彼の話をするくらい、私はずっと囚われていました。

その人と別れたあと、別の人と婚約しましたが、喧嘩は絶えず、愛されていないことに焦りを覚え、うまくいくのか不安で必死でした。

そんな中、彼とまた連絡を取るようになりました。
もういたずらも乱暴なことを言い合ったりすることもなく、ただ優しく受け止め合うようになっていました。

彼は相手と終わっていました。離婚の話が出ていて、もう好きじゃない。疲れたと。
とにかく私は何も言わず、彼の話を聴きました。
助けてあげたい、私なら幸せにできるのに、なんて口が裂けても言えない事が頭に浮かんでいました。
私、結婚するのに何考えてんだと自分に呆れながら。
恋愛感情はもうありませんでしたが、彼を守りたいという気持ちが強く強くありました。

結局彼らは離婚する事を決めて、相手は母国に帰りました。
彼も私に「そんな結婚するな」と言って、海外で仕事を決めて5ヶ月後に行ってしまいました。

「俺のこと好きだった?」と聞くようにもなり、困惑しました。
だって私、もう結婚するんだけど。
「遊びに来て。来ないと思うけど」
婚約者がいるから行けないんだごめんね。でも行きたいよ、会いたい。さようなら。

寂しいからじゃないのかと、すごく怖かった。それでも夢中で

私の結婚は予定の1週間前に破談になりました。

ひとりぼっちになりました。
上手く行かない関係性でしたが、私は真面目に婚約者を愛していました。
幼馴染や親友や彼や家族に支えられて立ち直っても、私の心はヒリヒリしていました。

どこか遠くに逃げたい。
そうだ、彼の所へ行っちゃえ。遠くに行って、全部忘れて、世界のデカさに圧倒されて、一皮むけて帰ってやるぜ。

彼にそっち行くわ!と告げて、航空券を買って、ホテルを探していたら彼が「俺んちで寝な」と言いました。喧嘩したらどうなるんだと思いながらも従いました。

そこは私にとって素晴らしい場所でした。面白くて、みんな他人のことなど気にしてなくて、例えば服装一つ半袖もいればダウンもいて、めちゃくちゃでした。
めちゃくちゃのもみくちゃにされて、彼はこの誰もいないアパートに帰ってまともにご飯も食べず、友達もつくらず、ベランダや川沿いのベンチでぼーっとしてるのかと思うと、切なくなりました。
彼になりたい、と思いました。

私たちは日を追うごとに手を繋いだり抱きしめあったりしました。
夢のようでした。手を繋いで一緒に眠って、彼が私にキスをしました。
死んでも良いと思いました。

でもすごく怖かった。
寂しいからじゃないのか。私も彼も。
でも夢中でした。
私の中で12年間がダムの放水のように溢れ出して、このまま水になって彼の身体に染み込んで、一部になってしまいたいとも思いました。
彼は泣きました。
いなくならないでほしいと。
いつもいなくなるのは彼なのに。

彼は自由に鳥のように飛び回って、手を伸ばしても届かない。

彼はまだあと2年、離婚できないと言っていました。国際結婚の兼ね合いで。
私は彼の元に留まれないし、付き合ってとせがむこともできません。
私に出来ることなんて、いつも通り何もありませんでした。
彼は自由に鳥のように飛び回って、私の知らないこと、私の知らない場所、私の知らない全てを知っていて、手を伸ばしても届かないのです。
目の前にあるはずの、あの居眠りする背中のように。

彼は何度か好きと言いましたが、悩んでいることが多い分、話が二転三転しました。

「親友に戻ろう。好きとはもう言えない、やっぱりそばにいてほしい。こっちにおいで。何とかするから一緒に暮らそう。年末年始は日本に帰るね。ただいま。会えるの楽しみだね。やっぱり会うのはやめよう。親友を無くしたくない。ずっと自分の人生の中にいてほしい。恋愛してしまったら、いつか失望されて最悪な結末になるから」

私には、「愛してる。待ってる」これしかありませんでした。でも、私に出来ることなんて何もないのです。

ああまた、この心のえぐれるような痛み。
笑える日は来るでしょうか。来ないと困りますね。
だってそのために彼は私を親友という毛布に包んで、海に流したんですから。