店内に流れるクリスマスソング。
多くがキリスト圏である海外の曲で、多くの人は歌詞を知らないだろう。しかし、マスクで見えないことをいいことに、私は声を出さずに歌っている。日本語訳された歌詞でクリスマスソング――いや、賛美歌を。

賛美歌「もろびとこぞりて」の意味は、要するに「色んな人全員集合」

私の家の宗派は仏教だが、入園した幼稚園はキリスト教を信仰していた。そこで私は3年を過ごし、小学生の間は幼稚園が主催する「土曜学校」に通った。「土曜学校」とは、教会が開く勉強会みたいなものであり、クリスマスはそこでの一大イベントだった。
なんせ「イエス・キリスト」――教徒は「主(しゅ)」と呼ぶ――の誕生の日。生まれるまでの経緯をミュージカル風の劇にして、教会で披露をする。名前が付くような重要な役は上級生がやり、下級生は専ら場面の切り替わりの際に賛美歌を歌う聖歌隊だ。
そんな聖歌隊の時に歌ったのが、冒頭にも述べたクリスマスソングとして知られる賛美歌だった。「Joy to the World」、またの名を賛美歌第122番、邦題「もろびとこぞりて」である。
子供が歌いやすように、日本語訳を選んだのだろう。けれど、この歌詞が作られたのは、1954年。それほど長い間歌われていることへの驚きもだが、言葉が全体的に古く意味が分かりづらい。
邦題もひらがなで記されているが、変換した方がわかりやすいかもしれない。「諸人(もろびと)挙(こぞ)りて」、要するに「色んな人全員集合!」。加えて歌の内容を簡単に言うと、「とても素晴らしい神の子が生まれます。なので盛大に讃え、迎える準備を!」だ。

最近知った、クリスマスツリーのてっぺんに飾られている星の名前

実際、福音書に伝えられている話によると、近くにいた羊飼いたちは天使に降誕のことを告げられ、生まれたばかりのキリストに会いに行く。天使による誕生日パーティーの招待だ。
一方、とある3人の博士たちは、輝く星に導かれて向かう。目的地である馬小屋を指し示すその星の名は、「ベツレヘムの星」。ちなみに「ベツレヘム」とは生まれた町の名前だ。
実はこの星、キリスト教に詳しくない方々にも、馴染み深いものである。なんと、あのクリスマスツリーのてっぺんに飾られている星の名前なのだ!
……まぁ、私も最近知ったのだが。クリスマスツリーの飾りには全て、おせち料理のように意味が込められているので、興味を持った方は調べてみて欲しい。
その後、聖歌隊を音痴ながらも務め上げ、上級生になった私にも役が回ってきた。
最初は羊飼い、最後の年は星に導かれる博士だった。3人の博士はそれぞれ贈り物を持っていく。キリストの母、マリアたちは旅の途中だったにも関わらず、出産の祝福に、祝い物を貰えるとは。連絡手段もない約2000年前の話にしては、すごいことだ。

コロナ禍で人との接触が減った今、SNSがある意味「ベツレヘムの星」

そして現在。コロナの影響もあり、産婦人科でも立ち合いや面会できる人は限られている。私に出産経験はないが、妊婦は心寂しいことだろう。
だが、想いや言葉をSNSで届けることは出来る。私がやっているのはTwitterなので、それでの話になってしまうが、時々タイムラインに出産報告のツイートが流れてくる。赤ちゃんの手や、抱っこしている母と子の写真が添えられたツイートには、多くの祝福のメッセージが届いていた。
コロナ禍で人との接触が減った今、SNSがある意味「ベツレヘムの星」となっているではないのだろうか。身近な知り合いだけではなく、遠く離れた地にいる人や今まで面識がなかった人にも誕生を知らせる存在に。
だって、そうだろう?
輝く星は、夜空を見上げれば誰でも見ることができる。SNSの投稿も、電波が繋がる限り、誰とでも繋がることができるのだから。
――主は来ませり 主は 主は 来ませり
星空のようなイルミネーションの下、「もろびとこぞりて」を歌いながら思う。クリスマスのように盛大じゃなくてもいい。全ての子供たちが、祝福の元に生まれてくることを。
そして、羊飼いや3人の博士のように実際に会って、贈り物が届けられる世に戻ることを。