光触媒研究の第一人者、藤嶋昭氏による著書『光触媒が未来をつくる』。光触媒という化学物質について、研究者によってその魅力と汎用性が解説されています。
専門家による著書ですが、けして難しくなく、初心者にもすんなり入ってきます。

光触媒の研究が世のあらゆる問題を解決し、人々を救うと確信

私がこの本と出会ったのは大学受験の浪人中です。
当時私は、大学生になれないのではないかという焦りと、勉強をしたくないという自己矛盾と戦っていました。本当にやりたいことはなんなのかがだんだんわからなくなり、なんのために浪人したのかも気が付いたら忘れていました。
理系には所属していたものの、得意科目は国語、苦手科目は数学と完全なる文系脳。おまけに古典や歴史も嫌いじゃない。むしろ大好き。文系に変えてもいいのでは、と脳裏にちらつく日々。
この本は、そんな時に出会った一冊です。

そもそも理系科目が大の苦手の私が理系に進んだのには明確な理由がありました。それは、この本のタイトルにもある『光触媒』の研究がどうしてもやりたかったからです。
この研究が世のあらゆる問題を解決し、人々を救うに違いない、という確固たる確信を持った私は、理系に進む決意をしました。しかし、大学受験は想像以上に厳しく、すべて不合格という結果に終わります。

理系科目は今も苦手。でも、研究に対する熱量は誰にも負けていない

それまで順風満帆の人生を送ってきた私にとって浪人は耐え難い屈辱でした。
「なんで私が」
そう、悶々とする日々を過ごし、勉強に手が付かない日々を送っていました。

その時、この本が私を救ってくれました。なぜ、理系に進んだのか、なぜ光触媒をやりたいのか、けして専門性の高いわけではない小学生向けの本が、私に問いかけてくれたのです。
光触媒が実用化すると何が起きるのか、どんないいことがあるのか、それを優しい語り口調で解説した本は、私の心にぐさりと刺さりました。この時感じた確かな心の震えは、初めてこの研究と出会った時の感動と同じものでした。

私は初心を取り戻しました。それから、これまでが嘘のように勉強に取り掛かることができるようになり、晴れて大学に合格、現在この研究に従事しています。
もちろん、今でも理系科目が苦手なことに変わりはありません。周りの優秀な人たちを見て、自分を卑下したり、手が動かなくなることはよくあります。先生方の話についていけないこともしょっちゅうです。
しかし、研究に対する熱量は誰にも負けていないと自負しています。

奇跡であり、必然。この研究をすることが天命なのだと思う

そんな私に最近大きな成果がありました。これまでも貴重な経験をさせてもらえることは多くありましたが、今回ばかりは研究者冥利に尽きる出来事でした。
「なんで私が」
周りでもっと頑張っている人や、もっとすごい人たちを見ているとどうしてもそう思います。昔先輩に、努力もしてないのに夢が叶ってしまった、と相談したことがありました。その時言われた、それは才能だよ、という一言が今でも強く残っています。

受験期という大切な時期にこの本に出会えたことは奇跡だと思います。しかし、同時に必然であったとも思います。きっとこの研究をすることが天命で、何か大きな力が、私とこの本を引き合わせてくれたのではないかな、と思います。