私はクリスマスが嫌いだった。
理由は単純。仕事だから。自分勝手な理由だと一番自分が分かっている。自分だけが働いている訳ではないっていう事も。
けれど、一歩外に出ればイルミネーションでキラキラと輝く街がどこまでも続く。手を繋ぐカップル、幸せそうな家族。その手にはチキンやケーキ、きれいに包装されたプレゼントを持っている。これから仕事へ向かう私とは違って、すれ違う人達がみんな楽しそうで羨ましく見える。聞こえてくるクリスマスソングが鬱陶しくなってしまう。

ずっとクリスマスが嫌いだったわけではない。
小さい頃は毎年サンタさんに宛てたお手紙を書いて、枕元に置いてドキドキしながら寝たり、シャンメリーで乾杯して大好きなチョコレートケーキを頬張って食べていた。
学生の頃は友達とプレゼント交換をして、みんなでサンタさんのおひげをつけて笑い合った思い出が。
社会人になってからは、仕事が終わればクリスマスも終了と、なんとも悲しいものとなっていた。

今の仕事を選んだのは私で、文句を言っても解決しないと分かっている

私は仕事柄、クリスマスなどのイベントや土日祝日が休めない。むしろ一番働かなくてはならないし、忙しい。仕事が終わる時間は、お店も閉まる時間。そんな日々を繰り返していると、私の心もどんどん卑屈になっていく。

羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい……。

今の仕事を選んだのは私自身だし、文句を言っても解決しないことも分かっている。でも、仕方ないんだと言い聞かせて働いていても、心のどこかで恋人や友人、家族と過ごす時間は憧れてしまう。
クリスマス当日にイルミネーションを見に行きたいな。ケーキとチキンは予約しておいて、取りに行くついでに少しドライブでもしようか。いや、クリスマスだから少し高級なディナーでもいいかも。お家でシャンパンで乾杯も捨て難いけどな~。プレゼントはサプライズの方が嬉しいかな。プレゼント交換も楽しそう。

この年は彼と過ごす初めてのクリスマス。妄想だけがどんどん膨らんでいく。「クリスマスはどうする?」と聞いてくれた彼には申し訳ない。私だってそうやって過ごしてみたいと思いながら、現実はクリスマスもいつも通り出勤した。

家に帰ると、小さなイルミネーションの世界が彼と一緒に待っていた

気がつけば仕事が終わり、クリスマスだったことなんて忘れていて、「これから帰るね」と彼に連絡を入れて何事もなかったかのように帰宅をした。
でも、私のクリスマスは終わっていなかった。家のドアを開けると私の知っている家ではなかった。
そこにはキラキラと輝く小さなイルミネーションの世界が広がっていた。大きなクリスマスツリーにトナカイの電飾。あちこちにいる小さな雪だるまたちが、帰りを待っていてくれていたようだった。どんなイルミネーションよりもずっと綺麗に見えた。
いつ準備したの?私の為にやってくれたの?大変だったでしょう?聞きたいことは山ほどあったけど、彼はいつもと変わらない様子で「お帰りなさい」と出迎えてくれた。
夜ご飯は、彼が作ってくれたチゲ鍋を食べた。とても美味しくて、温かかった。チキンもケーキも私には必要なかったのだ。
彼と一緒に過ごせるだけで幸せだった。

単純だけどクリスマスも悪くないかもと、彼のおかげで思えた

こんなサプライズは初めてだったし、彼のおかげで絶対に忘れられないクリスマスになった。サプライズだけでなく、プレゼントまで用意してくれていた。
ずっと欲しかったフィルムカメラ。記念に彼の写真を一枚撮った。私は彼に「ありがとう」と言うことしかできなかった。だから今度は私が彼をビックリさせるようなサプライズをしようと心に誓った。
単純だけどクリスマスも悪くないかもと、彼のおかげで思うようになった。色々な形があっていいと思うし、絶対チキンとケーキを食べないといけないなんて決まりもない。家に帰ってくる時間は遅いし、できることも限られているけれど、私は私なりにクリスマスを楽しんでいこうと思った。

もちろん、今年のクリスマスも仕事だ。別に同じことをしてなんて言わないけど、少しだけ期待をしている私がいることは内緒。今年は大好きな彼とどんなクリスマスを過ごそうかな。