インパーソネーターという職業をご存知だろうか。インパーソネーターとは、ある特定のミュージシャン等に扮するパフォーマーの事だ。
ものまねと同じじゃないか、と思う方もいると思うが、インパーソネーターはただのものまねとはニュアンスが異なり、重点が置かれるのはパフォーマンスの追求、再現や模倣といった言葉が相応しいだろう。
今からここに記すのは、そんなインパーソネーターを題材にした小説との出逢いだ。
ある時出会った小説。衝撃的なサブタイトルに惹かれて購入することに
高校生最後の年、私は卒業レポートの題材探しに明け暮れていた。
あの時の私はかなり卑屈で、誰に何を言われてもネガティブ思考が抜けない面倒な人間だった。暇があれば音楽に没頭し、洋楽ばかり聴いていた。数あるアーティストの中でもマイケル・ジャクソンが好きな私は、彼の事について調べようと様々なサイトを漁っていた。
小説「マン・イン・ザ・ミラー」に出逢ったのはその最中。「僕はマイケル・ジャクソンに殺された」という衝撃的なサブタイトルに惹かれ、いったいどんな物語が記されているのか気になって仕方がなくなり、勢いに任せて書店で購入して、一日かけて読みつくした。
すると、更に驚くべき事が分かった。この物語は事実を基にしたドキュメンタリーだったのだ。
マイケル・ジャクソンに魅了された主人公がインパーソネーターとなり、仲間と共に青春を過ごし、遂にはマイケル本人の前でパフォーマンスを披露するまでに至るが、その直後にマイケルが急逝し、「鏡」を失った主人公は仲間やファンの為にある決断をする。
どこからどこまでが事実で、どこが脚色されているのか。それすら判断出来ない程完成された、ほろ苦くも熱い物語に、私は一気に引き込まれた。
彼の半生に感銘を受け、同じ志を持つ仲間に出会いたいと思うように
主人公の生き様は、マイケルに「殺された」という言葉が妥当だと思わせる程だった。どこまでも陰で生きる彼の半生に、時には心を痛め、時には感動した。
だけど、小説に登場する人物の人生という物語は終わっていない。
彼らの生き方に深く感銘を受けた私は、自分もいつか同じ志を持つ仲間と共に青春を送ってみたいと思うようになり、同時に彼らは今、どこで何をしているのか調べたくなった。そして、卒業レポートの題材を小説に変え、取材と称して小説の舞台となった場所を一人で勝手に訪れた。その先で小説の主人公や登場人物のモデルになった方と出会い、次第に私自身に変化が訪れた。
いつの間にやら自己肯定感が上がったのだ。恐らく、人間関係がグッと広がって世界も広くなった事が理由だと思う。何もかもが有難くて、他人の幸せを自分の事のように喜べるようになった。
たった一冊の小説のおかげで動いた人生に、心から伝えたい「感謝」
たった一冊の小説を読んで、光の届く所ではなく影になる人の生き方に心を打たれた私が行動を起こさなければ、今こうして大学に通いながら同じマイケル好きの仲間と青春し、文章を書き続ける事だってなかっただろう。
今があるのは、全て「マン・イン・ザ・ミラー」のおかげだと言っても過言ではない。心からマイケルを愛する全ての人に、そしてマイケルに感謝を伝えたい。