沢山の本が並ぶ図書館は、日常から離れられるお気に入りの空間

陽が差し込み明るくて、本が沢山並ぶ懐かしい匂いのする図書室。小学1年生の私のお気に入りの場所だった。
両親はケンカばかりで仲が悪く、学校では引っ込み思案でなかなか友達になじめない、小学生の私を救ってくれたのもまた図書室だった。本が友達とまでは言わないけど、優しい司書さんがいて読みたい本がたくさんあって、新しい本が次々入ってきてわくわくする空間だった。
当時、新着のコーナーでとある本に目がとまった。外国の児童書のようで、普段読む日本の昔話や児童書とは一風変わっていた。
楽しそうに立ち読みしていたのか、司書の先生に「おもしろい本でしょう、読んであげるわ」と授業でしかしない朗読を私のためにしてくれた。嬉しくて、日常の煩わしいことは忘れられた瞬間だった。

声に出して読みたくなるような詩に、背筋が伸びるような気持ちに

それから時は経ち、高校1年の頃。相変わらず本が好きだった私は図書委員を3年勤め、色々な本に出逢った。高校2年の時に進路を決める際に親と揉め、今まで頑張ってきたのは何だったんだろうと悲しんでいた時に、司書の先生に勧められた本があった。
それは詩集で、そのときに読んだ谷川俊太郎さんの「朝のリレー」という詩が私を救ってくれた。

その詩は、キリンの夢を見ているカムチャッカの若者から始まり、メキシコ、ローマなど、地球上のさまざまな街の少年少女の朝の様子を描いているものだ。誰かの1日が始まると同時に終わりを迎えているという当たり前の事実を、リレーと表現している。

元々、谷川俊太郎さんの作品は教科書で知っていたが、こんなに声に出して読みたくなるものなのかと感動した。
地球の裏側にいる、まだ見たことのない誰かを思い、背筋が伸びるような気持ちになったのだ。私が今進路のことで悩んでいることはとてもちっぽけで、取るに足らないことのような気がした。
まだ高校生で親に養ってもらっている身分なので、主張が通らないこともあるけど、自分なりに誠意を見せてぎゃふんと言わせてやろう!とパワーが湧いてくるのを感じた。

夢に向かう一歩を踏み出せたのは、あの詩が背中を押してくれたから

それから私は好きだった図書室の空間を守る人になりたいと思い、司書の資格が取れる大学へと進学した。家から通えないなら学費は出さないと言った親に「寮生活する!」と押しきった。
最初は、「引っ込み思案なあなたが寮生活なんてできるはずがない」と言われたが、環境を整えてしまえばこちらの勝ちという訳で、学費の奨学金の手続きや入寮の手続きをほぼ一人でやり、親には事後報告のような形で認めて貰った。私はもう小学生の頃の引っ込み思案な私ではなく、成長したのだということが分かって貰えて嬉しかった。

という訳で大学で司書の資格は取得したものの、違う職種に興味をもち、結局関係のない就職先に落ち着いてしまった。
しかし、あのとき自分の夢に向かって努力できたことは大きな一歩だったと思うし、背中を押してくれたあの詩にもとても感謝している。
今は電子書籍などで簡単に読みたい本が手に入るが、図書室の膨大な本から直感で選ぶような本との出逢いも大切にしてほしいと思う。不思議と、そのときの自分にとってふさわしいことが書いた道標のような本が見つかるかもしれないから。