私は海外旅行が大好きで、よく友人を誘っては海外に出かけていた。
そこに理由などはなく、ただ行きたい、見たい、空気を吸いたい、文化に触れたい、だけだった。
時間ができたら、思い立ったら行く、そんなところだったと思う。
どの旅も印象的ではあるが、その中でもポーランドを取り上げようと思う。

物語を書きたい、という衝動に駆られそうな魅力的な場所

ポーランドはなぜかわからないが、ずっと行ってみたい国だった。他の人にも行きたいというと、「なんで?」と返答がきた。
そんな時に1人の友人が行きたいと言ってくれた。理由は今後行かなさそうだから。他の人からするとそんなもんなんだろう。

かといって、私自身、なぜそんなに行きたいのか、わかっていたわけではない。
ただ行きたい場所はいくつかあった。
ショパン博物館、キュリー夫人博物館、アウシュビッツ収容所、岩塩坑。これだけあれば暇を持て余すことはない。
それに名産としてあげられるのは、リンゴに蜂蜜酒。よく海外の小説にも出てくるアイテムだ。そのためポーランドは、物語を書きたい、という衝動に駆られそうな、魅力的な場所である。

精神的に深いところで旅行をしている。そんな気がいつもしていた

実際行ってみると、観光が楽しかったのはもちろん、海外ならではの経験もすることができた。
例えばバスの中。キャリーを持って立っていると、男の人にさっと席を譲られた。一瞬戸惑ったが、レディーファースト文化の根付いている様に感動すら覚えた。
また、キュリー夫人。教育に力を入れる家庭は勉強熱心なポーランド人ならではだし、女性教育もずっと昔から行われていることに感銘を受けた。
かかった費用はお土産含めて15万。これまでの海外経験と貯めてきたクーポン、少しばかりの英語力を駆使して貧乏旅行に成功した。いかに安く旅行に行くかを考えるのは、趣味を通り越して特技とも言えた。

でも、なんだか旅行が好きな理由はこんな単純なことではない気がする。もっと精神的に深いところで旅行をしている気が、どこかでいつもしていた。

私にとって海外旅行は、友情の確認みたいなものでもあった

よくよく考えてみると、これらの行きたい場所はどれも私の小さい頃とゆかりがあった。
研究者を夢見た日々、ピアニストに憧れた日々、そして極め付きは2005年に行われた日本国際博覧会ポーランド館で見た岩塩坑。どれも小学校の頃の記憶だ。
最近は当時を思い出して少々感傷的になる日が増えた。
喧嘩別れした人、自然と疎遠になった人、あの時はまだ若くて気付かぬうちに傷つけてしまった人。
もうあの頃は戻らない。この時一緒に旅行に行ってくれた友人も、いつまで会ってくれるかはわからない。私にとって、海外旅行は、友情の確認みたいなものでもあった。何かを信じられなくなることが、大人になるってことなのかもしれない。

私はいつか、旅で感じたことをエッセイにまとめて本を売り出したいと考えている。旅行に出かけるとその意欲が高まる。
また、海外で集めた本を並べてブックカフェを作りたい。誰のためでもない、自分のためのカフェだ。
創作意欲と旅行欲を高め、少しばかりの現実逃避と精神安定のためのカフェである。

コロナ禍に入って、私自身がずいぶん変わってしまったのかも

まさかこの旅行の後、海外に行けなくなる日々が続くとは思っていなかった。
日に日に物事への意欲がなくなる中で、私は発達障害の診断を受けた。
この診断を受ける人というのは、男性が女性より数倍多いらしい。有名人には多いと聞くし、自分は才能を持ったレア物なのではと、意外にも重く受け取らなかった。
ただ障害は障害で、他人に比べて生きづらいのは確かだ。そのために起きた事件もたくさんある。
もしかしたら海外旅行は、障害を持った私の生きる意欲をなくさないために必要不可欠なものだったのではと、今では思っている。そのため、コロナ禍に入って、私自身がずいぶん変わってしまったのではないだろうか。

そこで私は一つ目標を作ることにした。
47都道府県制覇だ。これなら今のご時世でも達成しやすい。
普通の人と同様に普通の生活を送るために、私は旅行をするのだ。