同じ経験をしていない人に、私の辛さは分かるわけないと思っていた
私は、人を頼るのがこの世で一番苦手だ。
小学生の頃、同級生の男子にいじめられたとき、高校生の頃、同級生の女子にブログに悪口書かれたとき、すごく辛かったけれど、誰にも言わなかった。
自分の悩みや苦しみを誰かに話して興味半分に同情されるのは嫌だったし、味方面をされて安っぽい小説から抜き出してきた励ましの言葉を押し付けられたり、大騒ぎされて事を大きくされるのも嫌だった。
また、自分の味わっている状況を経験していない人に自分の辛さが分かるわけないと思ったし、自分の気持ちなんて誰にも分からなくてもいい。だから自分でこっそり持っていようと決めた。
そうやってずっと生きてきた。26年間ずっと。
だけど、今年の秋にそんな自分が変われた。
「話を聞くよ」。手を差し伸べた同僚に背を向けた私だったけど
今年の秋、職場の人間関係で揉め事が起きた。職場で起こっている揉め事の責任はすべて私にあると上司から詰められ、私は心身ともに体調を崩してしまった。
食事が喉を通らなくなった。げっそりと削げた頬、肩周りの肉が取れ、不健康に痩せた身体が自分の心身のダメージを如実に表していた。
固形物が喉を通らず、ヨーグルト・サプリメント・スープで栄養を摂取する毎日。そんな私の姿を見かねた同僚が「話聞くよ」と手を差し伸べてくれた。
だけど私はその手を振り払った。「大丈夫。これは私の問題だから」と言って心のシャッターを降ろしたのだ。
自分の気持ちなんか、誰にも分かるわけない。安っぽい言葉をかけられても何も変わらない。そう思って私は彼女に背中を向けた。
次の瞬間、私の背中に温かな手が触れた。彼女の大きな手だった。
「ねえ、私じゃ何もできないかもしれない。あてにならないかもしれない。だけど私はあなたが元気なくてこんなに痩せてこんなに苦しんでるのを見たくない。心配させてほしい。苦しんでいるなら私に少し背負わせてほしい」
出たよ。安っぽいドラマのセリフのコピーアンドペースト。私はそう思って背中を向けたまま何も言わなかった。
「あなたの身体は、あなた一人の身体じゃない。あなたの元気に励まされている人がたくさんいて、私もそのうちの一人なの。だから、あなたはあなたを大切に思って必要とするみんなの大切な存在なの。あなたが元気じゃないと私達が調子狂って私達が困るの」
彼女はそう続けた。気がついたら私は泣いていた。
私が泣き止むまでの20分。ずっと寄り添ってくれた同僚に心が震えた
私はその言葉を一生忘れないと思う。
自分の中の何かがぷちんと切れて涙が溢れた。彼女は私が泣き止むまでずっと一緒にいてくれた。
私は、自分の抱えている思い、どうしたら良いのかわからないこと、周りの人に否定されすぎて自分で自分を嫌いになりそうなこと。すべてを話した。彼女は、私のしたことは間違っていないと言ってくれ、私があなたの立場なら同じことをすると言ってくれた。
彼女の言ってくれた言葉が嬉しかったのはもちろんだが、私が泣き止むまでの20分間、何もせず、何を喋るわけでもなくただそばにいてくれた。そのことがとても嬉しかったのだ。
私は今まで、自分の気持ちや苦しさなんか誰にも分かるはずがないし、誰もわかってくれなくていい。所詮、他人だし、誰だって自分が一番かわいいに決まっている。そう思っていた。だから、急にパッと手を離されるのが怖くて差し伸べてくれる手をいつだって振り払ってきた。
だけど、誰にも分かるわけないと思っていた自分の気持ちを誰かにわかってもらえたとき、自分の味方でいてくれる存在に気づけたとき、自分の心の荷物を一緒に背負ってくれる存在に出会えたとき、心が震えるほど嬉しいと初めて知った。
そして、差し伸べた手を振り払われる寂しさも。私はこれまで何人もの手を振り払って意固地になって生きて来たのだろう。そう考えると胸が苦しくなる。
今度は自分が、誰かに手を差し伸べるそんな存在でありたい。