今の私を作った本、それはデイヴ・ペルザー氏の『デイヴ さよなら“It”と呼ばれた子』である。
本書はデイヴ氏のベストセラー『“It”と呼ばれた子』の最終章で、青年期から成人後の現在に至るまでの著者の経験を綴ったものである。
本を読んで、被虐待児のその後を調査した。人間科学に関心を持つきっかけに
あまり知られていないかもしれないが、デイヴ氏の『“It”と呼ばれた子』には続編があり、実母からの虐待の事実を綴った『“It”と呼ばれた子』、虐待から逃れ、里子としての人生を歩み出した少年期を記した『“It”と呼ばれた子 少年期ロストボーイ』、そして青年期から現在に至るまでの経緯をつづった『デイヴ さよなら“It”と呼ばれた子』の三部作で構成されている。
私は中学1年生の時に読んだ『“It”と呼ばれた子』のあとがきで、虐待が負のものとして連鎖する事実に衝撃を受け、被虐待児であるデイヴ氏の一生を追うために三作全てを熟読した。
最終章から、デイヴ氏は幼い頃からのトラウマや被虐待児としてのスティグマ(差別・偏見)と向き合いながらも、消防士になる夢を実現させていることが分かった。
それを機に、二次障害として発症しやすい精神疾患や、被虐待児のその後について等、関連する書籍やブログを読み込んだ。
当時はまだあまり知られておらず、調べた文献が重複することもあった。このことは、社会学や心理学、教育学といった人間科学に関心を持つきっかけともなった。
人々が生きやすい世を作りたい。中学生の私は心に誓った
この本と出会う以前、私は根っからの歴女だった。研究熱心なマリー・キュリーや文才のあるアンネ・フランクに憧れ、これらの書籍を何冊も読んだ。私も彼女らのように世に何かを残そうと、将来への期待を膨らませていた。
恋愛対象はクラスの男子ではなく歴史上の人物で、小学6年時に放送されていた新選組のイケメン俳優をそのまま歴史上の人物に例え、隊員に恋心を向けていた。このまま歴史を学び続けるのであろうとその当時は思っていた。
その想いは、本シリーズを熟読したことをきっかけに意外とあっさり抜けてしまった。
史学はあくまで過去を掘り下げる学問である。しかし、現在(いま)この世には支援を必要としながらもその対象とならずに大変な思いをしている人が多くいる。私は参考文献が少ない中、この分野を深く知ることが出来た。
こういった人々を救うことが出来るのは私しかいないのではないか。私は現在(いま)を生きる人間が生きやすい世を作るために、人間科学全般を学びたい。中学生ながらそう心に誓った。
この想いは28歳になった現在に至るまで一度も消えることなく、社会人となった今でも勉学に励んでいる。
生きづらさを抱えていても、夢や希望を捨てる必要はない
私は大学、大学院と合わせて269単位取得し、27歳まで学生を続けた。周囲の人からは「勉強することが好きなんだね」とよく言われ、自分でも納得していた。
しかし今思うと本心はそれではない。私が好きなのは勉強ではなく、人助けである。
私は中学生の頃、人助けをしたいという想い一心で興味、関心がシフトした。
高等教育機関に進学後は、精神疾患に悩まされている友人が多くおり、時間を惜しまず彼ら、彼女らの相談に乗っていた。
中には最悪の選択をする寸前だった友人もおり、一週間に一度は連絡を入れた。その友人はSNSで「生かしてくれた方、ありがとう」と言っていた。
私は人の命を救うことが出来た。中学生の頃からの夢を実現できたことを心の底から嬉しく思った。
デイヴ氏がハンディを乗り越えて夢を実現できたように、現在生きづらさを抱えていても、病気で身体が動かなくとも、夢や希望を捨てる必要はないのではないか。私は支援を求めてきた友人一人一人にそう伝えている。
本書は人助けをしたいと思うきっかけと、生きづらさを抱えた人への希望という側面から、私の人生の中で大きな分岐点となった一冊であった。