旅行は好きだけど、私にとって遠くに行くことは目的ではない。
もちろん、見てみたい景色や訪れてみたいところが遠い場所にあったら、時間をかけてでも行ってみたいと思う。
でも、私は遠くに行かなくても、家の近くで美味しいごはん屋さんを発見したり、お祝い事の時は必ずここで買おうと思えるような行きつけの小さなケーキ屋さんを見つけたり、一番お気に入りのパン屋さんを探すことも、同じくらい楽しい旅になる。
そして、私が一番必要としている旅は、さらに身近なところにある。

現実から離れて違う世界に行ける本は、私の安全地帯

私を旅に連れて行ってくれるのは本だ。
私は自分の気持ちを切り替えるのがあまり得意ではない。例えば3日後に締め切りの仕事があったり、1か月後に試験が決まっていたりすると、何をしていても気が付けばそのことばかり考えてしまう。
それこそ社会人になりたての頃は特に、休日なのに次の出勤のことばかり考えてしまって、いくら体を休めても心が休んだ気にならなかった。

そんな時に私を助けてくれたのは、本だった。どんなに短い時間でも、本を開けば現実から離れて違う世界に行くことができた(私の脳は器用ではないので、本を読みながら他のことを気にすることができない)。

仕事に行くことが憂鬱な日、そんな日は余計に仕事のことばかり考えてしまって、どんどん負の感情の方に引っ張られていく。もう二度と、明るい世界に出てこられないのではないかと思える程、沈みそうになることがある。
そんな時は出勤前に休憩室で10分でも本を開く。そうすると、その時間だけは嫌なことを考えなくて済んだ。自分の思考が嫌なことでいっぱいにならずに済んだ。本は私が暗闇に引き込まれそうになった時、いつも安全地帯として存在してくれている。

私にとっての本は、音楽や推しやなんでも相談できる友達と同じ

職場で本を読んでいるとよく言われることがある。本を読んでいるなんて賢いとか、偉いとか。
こういったことを言われると、私は少し寂しくなる。私にとって本は、賢くなるために読むものではないし、本を読んでいることを偉いと思っている訳でもない。何なら私は読むのが速くはないので、1か月に多くても4冊程度しか読めない。
私にとって本は、好きな音楽とかアイドルの推しとか、なんでも相談できる友達とか、そういうものと同じだと思う。自分を助けてくれたり、庇ってくれたり、何かを忘れさせてくれるもの。それがあることで、負の気持ちから戻ってくることができるもの。

今までも本を読むことは好きだったけれど、それは時間がある時に観る映画と同じだった。楽しむことが目的で今までは本を読んでいた。でも今は、楽しむためだけではなくて、自分を守るために読んでいることが多いかもしれない。
本はどこにでも持って行けて、助けて欲しい時に必ず手を引いて、ここじゃないどこかへ連れ出してくれる。気が付けば考え過ぎてしまう私を、無理やりにでも現実から引き離してくれる。私にとって必要な旅は、どこにいても、どんな時でも、ほんの少しでも時間があれば行ける、本の世界だ。