小さい頃の私は、兄の背中に隠れて俯きながら歩く子だった。何が恥ずかしかったのか今では分からないが、中学生くらいまでは人前に出るのが大嫌いだった。運動会のリレーや委員会の発表はもちろん、地域の人への挨拶すら緊張していた。

高校生になると少しはよくなったが、それでも自分から前に出るタイプの人間ではなかった。友人達には恵まれたと思うが、心を開くまでが長い。ただの人見知りで済まされるのか問題なくらいに人見知りだった。

私は自他共に認める他力本願人間だったけど、旅で新たな自分を発見した

そんな私が、大学2年生のある日、「旅に出よう」と思い立った。何かに悩んでいたわけでも、海外に憧れがあったわけでもない。
そこからは、自分でもびっくりするくらいの行動力を発揮して、すぐに飛行機に乗った。
言葉が通じない、文字は読めない、道は驚くほど汚い、しかし心細いと感じた事は1度もなかった。ここにいる誰も私の事を知らない。そう思うだけで心が軽くなった。
自分の積極性に驚かされた。この人と次に出会う事はもうないかもしれないと思うと、不思議と積極的に話せるようになる。新しい自分を発見した気分だった。

旅をすると強くなれるような気がする。孤独に耐えられるようになり、自分を周りと比べなくなる。そして、機転が利くようになる。
自他共に認める他力本願だった私は、常に誰かと一緒に生きてきた。困ったら誰かが助けてくれていたし、自信がない事には手を出さなくてもよかった。とても楽な生き方をしていた。

しかし、異国の地で困っても誰も助けてはくれない。当たり前だが全ての選択を自分一人でする事になるし、自分の身は自分で守らなければならない。そんな環境に身を置く事で初めて孤独感を味わった。
しかし、私が感じた孤独感は心地良いものだった。本当は一人でいる方が好きな人間だったようだ。

旅に出て他人と比べることも、謙虚になりすぎることもなくなった

自分の存在を認めたからか、他人と自分を比べなくなった。「あの人の方が」「あの人なら」なんて考えはなくなる。起床から睡眠まで、何時に何をしようと誰からも何も言われない。
自分とは生き方が違う。ただそれだけの話。旅に出て私の考え方は簡単に変わってしまった。
自分の常識では考えられない事もその土地では常識。その場で自分がどうするべきか、どう接するべきかを考えるようになる。想定外の事態にも、柔軟に対応できるようになる。

小さい頃から体に染み込んでいた謙虚さは、ここでは全く必要ない。YESもNOもはっきり言っていい。それが、一番良い方法だという事にも気付かされた。
「全員詐欺師だと思え」と旅に出る前に祖父が言っていた言葉。これはネガティブな意味ではなかった。自分を信じて自分で行動できるようになれと言いたかったのかもしれない。

自分の強さを確認するため、私には「一人旅」が必要だった

帰国してからの私は、驚くほど楽観的になった。アルバイトで稼いだお金は、次の旅先へ使うものだと思って生活していた。
国内も国外もいろんな場所へ行った。色んなものを見て、聞いて、学んできたからこそ、怖いものが全くないわけではないが、自分なら大丈夫だという自信がある。

私に旅が必要な理由、それは自分の強さを確認するため。今の私は、様々な言語が飛び交う道を一人で歩ける人間になった。