大学1年生のとき、はじめて深夜バスに乗って京都に行って、飛行機に乗って福岡、沖縄にも訪れた。
でも今は新型コロナウイルスの影響に加えて、大学の活動や就職活動があって、国内旅行も難しい状況だ。
そんな中でも私は、大学1年生のときの旅行に匹敵するような大冒険をした。
知らない世界がたくさんある渋谷。そのひとつがユーロスペース
電車で片道一時間、渋谷まで。
それは通い慣れた通学路とも等しく、そのこと自体には、何の冒険性もない。
でも渋谷には、私の知らない世界がたくさんある。
そのうちのひとつが、円山町の映画館、ユーロスペースだ。
スクリーンは2つ。1つは145席、もう1つは92席という、小さな映画館である(ちなみに92席のほうは、スクリーンに近すぎず遠すぎない6列目がセンターブロックの最後列で、かなり快適に鑑賞できる)。
これはいわゆるミニシアターというもので、たとえば『TOHOシネマズ日比谷』や『丸の内ピカデリー』のような大きい映画館と違い、比較的マイナーであったり、芸術性が強かったりする映画が上映されていることが多い。
試しにユーロスペースや池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺といった映画館の上映作品を一度、見てみてほしい。きっと、聞いたことのない映画や知らないキャストが多いことと思う。
だから、こうした映画館には、何かきっかけがないと足を運ばないだろうし、とっつきにくいイメージがあるかもしれない。
それに加えてユーロスペースなんかは、ラブホテル街に位置しているので、余計にそうだ(実際に行かれる方には、渋谷駅から見て109の左手側から行くのではなく、右手側から行かれることをおすすめする)。
気鋭の若手監督のお話を聞いて、すっかり火をつけられてしまった
しかし実際に行けば、私のように、「大冒険」を味わえるに違いないのだ。
私がなぜユーロスペースデビューできたのか。
それは、映画『逆光』、およびその舞台挨拶に行くためだ。舞台挨拶が後押ししてくれなかったら、私の世界は変わらないまま2022年を迎えていたかもしれない。
映画『逆光』は1970年代の尾道をテーマにした青春群像劇。
尾道の景色を映画館の大画面で見るだけでも、旅行に似た満足感を味わえる。
それに加えて舞台挨拶で、監督および主演を務める25歳の須藤蓮さんや、個性豊かなゲストの方々のお話を伺うことができた。
極めつけは、ロビーに出ると監督やその他関係者の方とお話しすることもできたのだ。
ここで気鋭の若手監督・須藤さんのお話を聞いた私は、すっかり火をつけられてしまって、どうせ仕事にはできないからと、「趣味」と言い張っていた小説執筆に対して、真剣に向き合うようになった。
大冒険である。
ぜひ勇気を出して、サイトを開いてほしい。そこで待っているもの
実際には、ここまで出演者と交流できる作品ばかりではない。
しかし、キャストやスタッフの方々に会える機会は、大きな映画館よりもずっと多い。
それに、「よく知っている人」が出ている「よくテレビで宣伝している映画」を見るのももちろん楽しいけれど、「はじめて見る俳優さん」の「聞いたことのないタイトルの映画」を見ることは、それだけでぐっと非日常度を増す。
程度の差はあれ、「大冒険」になることは間違いない。
旅行になかなか行けない、でも非日常に飢えているというみなさん。ぜひ勇気を出して、ユーロスペースのサイトを開いてみてほしい。そこには知らないタイトルが並んでいるかもしれないけれど、その中には必ず、気になる作品がある。
そうしたらぜひ、ドキドキしながら渋谷の街を歩いて、ドキドキしながらエレベーターに乗り込み、3階を押してみよう。ドアが開いたら、薄荷のにおいのするアルコールジェルと横長の狭いロビー、聞いたことのない映画のポスターの羅列が、あなたを待っている。