大掃除や引っ越しを経ても手元にある、私を救い導いてくれる本

その本に出会ったとき、主人公がとても大きく見えたのに、今はもうとっくにその歳を追い越してしまったな、と思う本がある。中学生のころに出会ってからもう十年近く、幾たびの大掃除や引っ越しを経ても私の手元にある大切な本だ。単純に大好きで何度も読み返した本はたくさんあるけれど、折に触れて私を救い導いてくれる本は、宮部みゆき先生の「小暮写眞館」一作のみである。

本作の主人公は、花菱英一。都内でもレベルが高いとされる高校にぎりぎりで入学し、今一つぱっとしない生活を送っている平凡な男の子だ。英一自身はぱっとしないけれど、英一の周りはちょっと変わった人に溢れている。「夢のマイホーム」にシャッター商店街にあるぼろぼろの元写真館(これがタイトルの「小暮写眞館」)を選んだ両親、エリート私立小学校に通い、絵の才能がある弟の光、そして、キャラが濃くて優秀な高校の友達。

英一の両親が「小暮写眞館」の外観を改装せずにそのまま住み始めてしまったせいで、英一は写真屋の関係者だと勘違いされてしまい、「訳あり心霊写真」の調査が舞い込むようになる。「訳あり心霊写真」の霊は、義両親と分かり合えなかった嫁や婚約者に重大な隠し事をしていた男など、「家族」への想いだった。英一は写真の謎を解き明かしながら、自分の家族が抱える秘密にも迫っていく。

子供は親のことが好き。道徳の授業で習い、私はひやひやした

私は、家族が苦手だ。私の家は、同居している父方の祖父母と母の仲が極端に悪かった。母は毎日毎日子供に馬鹿みたいに当たっていて、祖父母はそれを見て見ぬふりしていて、父は仕事で家にいなかった。そうだからか、愛情は感じるのにどうも母のことは好きになれない。絵にかいたような昭和のお父さんを地で行く父とは、会話もできない。

小学生の頃は、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に住んでいるなんてちびまるこちゃんみたいでいいね、と友達が言うたびに、うちは普通じゃないんじゃないかとびくびくしていたし、子供は親のことを好きなもんだと道徳の授業で習ったときは、私は変なのではないかとひやひやした。

親と子の関係とは。何かが誰かにとっては正解で、不正解

私は、家族が苦手だ。愛情は感じるけれど、好きにはなれない。でも、それでいいんじゃないかと思えるようになったのは、「小暮写眞館」のおかげだ。

「小暮写眞館」には、いろんな家族が出てくる。話のネタにと正月休みに高校生の息子に派手髪をさせる父、子供を心配し過ぎる母とその母に気を使う子供、親に守ってもらえなかった子、いじめられた娘に堂々と生きろと諭した両親。子供を管理したがる親とそれに反抗する子供。誰かにとってはそれが正解で、誰かにとっては不正解な、親と子の関係。

家族にだって相性はある。分かり合えないことはある。英一のところにやってくる写真たちは、そう私に語り掛ける。

それで良いじゃないかと思うのだ。別に私の両親は、私を嫌いなのではない。むしろ愛情を持ってくれているし、だからこそ大学を卒業するまで面倒も見てくれた。私も多分、家を出ても適度に連絡を取りながら気にはかけるんだろうし、必要になれば両親の世話をするんだろう。好きにはなれなくても、これまで育ててくれてありがとうと思いながら生きていくんだろう。

ちびまるこちゃんみたいな「普通」で「理想」の家族なんてない。でも、家族ってそんなもんだ。