当時の私は19歳。大人でもなければ少女でもない、どっちつかずの年齢。何もしなくても大人になるのが辛くてたまらなかった。
死にたかった。でもできなかった。そんな自分が情けなくて惨めでかわいそうだった。
20歳になる数ヶ月前、この本に出会った。
「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」(桜庭一樹著)
表紙が可愛かった。それだけの理由で買った。
「表紙が可愛い」そんな理由で偶然手に取った本の言葉に共感した
主人公のなぎさは14歳。早く社会に出て「実弾(お金)」を手に入れようとするリアリスト。そんななぎさと、自分を人魚と言い張る転校生の海野藻屑が過ごした短い季節の話。
なぎさは言う。
「砂糖でできた弾丸では子供は世界と戦えない」
わかる。
親の言う通りに生きてきた。試験では上位に入って、進学校に通って、国立大学に行って。
勉強だけできたって生き抜いていけない。
親友と同じ高校に行きたい。
手に職をつけたい。
専門学校に行きたい。
早く社会に出たい。
でも、でも、でも。
それならとりあえず、とりあえず、とりあえず。
「大人になってからすればいいじゃない」
そうじゃない。わかってほしかった。
大人になろうとしてること、このままじゃ何もできないこと、夢中になれるものがほしかったこと、でもどうしたらいいかわからなくてもがいていること。
私が発した弾丸は、大人とは違う。そんな時に出会った本は救いだった
私が発した弾丸は砂糖菓子でできていて、親や教師にたどり着くと崩れて落ちた。
だけど大人が発する実弾は容赦無く私を撃ち抜いた。
「どうして?」「そんなことで悩んだ時期が私にもあったわ」
「子供だねぇ」「大人になればわかるよ」
うるさい。うるさい。うるさい。
わからないし、わかりたくもない。大人になればわかるのは諦めなんじゃないの。
そんなこと言わないで。他の誰でもない「私」が悩んでいるの。苦しいの。辛いの。
でも子供の弾丸は撃ちぬけない。届かない。最後には撃てなくなった。
だから私は進学校に通って、親や教師が薦めるレベルを下げた国立大学に入った。どっちつかずの選択。小さな抵抗。最後の力を振り絞って放った弾丸はやっぱり砕けて落ちた。
そんな時に出会った。衝撃だった。救いだった。この気持ちは私だけじゃないんだと思った。
24歳になり、あの時打てなかった実弾を打てるようになったけど…
「子供はみんな兵士で。この世は生き残りゲームで」
死んじゃった子供は戦死者名簿に名前を連ねる。
戦死者名簿に私の名前は載っていない。載らなかった。
私は生き残った。生き残ってしまった。
だったら生きないと。名簿に載った子たちの分まで生きないと。弾丸を撃ち続けないと。
どこかの知らないところでたくさんの子供たちが戦っている。
私も負けていられない、そう思えるようになった。
24歳になった。今の私は実弾をボコボコ撃てる。
だけどこの本を読むと砂糖菓子の弾丸をポコポコ撃てる。
大人に当てるとやっぱり砕ける。
だけど撃ち続けられる。
砂糖菓子の弾丸を撃ってる少女の私が好きだ。
辛くて辛くてたまらない時は甘い弾丸を放って、誰にも気づかれないけど一人でほくそ笑む。
実弾をガンガン撃ってる大人の私も好き。
生きていくために必死で周りにぶっ放して、生き抜いた私を守ってる。
辛くなったらこの本を読む。
生き抜いた私を確かめるために。必死で戦っていた私を思い出すために。
この本は私を大人に変える本。私が少女に帰る本。