中学2年生の冬、文房具を買うために行った書店で、とある本に引き寄せられた。
『空を見上げて大切なことに気づく100の言葉』(宮永千恵/かんき出版)という本だ。
この本には世界のさまざまな著名人の言葉が100個書かれており、私が初めて自分のお金で買った本となった。この本に書かれているすべての言葉に今までにないほど感動し、ひとつの言葉を読むたびに、心が満たされていくような感覚になった。
私の小さく狭い世界の殻を猛スピードで破壊し、豊かにしてくれた本
当時中学2年生だった私は小さく狭い世界に生きていたと思う。当時の私が生きていた世界を構成する人物は主に、家族と友達だった。
毎日の会話もこの人たちと行われていて、当時の私がもっていた言葉は、家族や友達によって発された言葉だった。周りの友達が何気なく発した小さな言葉に振り回されることもたくさんあったし、何かを決めるときにも母からの了承の言葉がないと不安になることもあった。
そんなときに、文房具を買うために行った書店で思いがけずこの本と出会い、この世界に、こんなにも自信をもって素晴らしい言葉を発する人がいることが、とんでもなく衝撃的だった。私が生きていた小さく狭い世界の殻を猛スピードで破壊し、豊かにしてくれたのはこの本だった。
当時の私がこの本の中でいちばん好きだったのは、「人生最大の喜びは、あなたにはできないと言われたことをすることだ」というウォルター・バジョットの言葉だ。
周りからは高校受験の話がちらほら出てきていた頃で、私も志望校を決めようとしていた。この言葉が私の中に眠っていたプライドや、負けず嫌いな部分に火をつけ、私は県内で一番二番を争うような優秀な高校を志望校として選んだ。
それからの私は自分の意志で学習塾に通い始め、どんどん成績が上がっていった。それまで少しだけ苦痛だった勉強が楽しく感じられる瞬間もあり、言葉ひとつでこんなにも人が変わることに、私自身がいちばん驚いていた。
本を読む理由は娯楽ではなく、新しい言葉に出会って世界を広げるため
その本に出会ってからしばらくは、名言集のようなものをたくさん買って読んだ。気に入った言葉があれば、そのページに付箋を貼ったり写真を撮ったりして、いつでも見られるようにした。
この本との出会いをきっかけに読書が好きになり、今に至るまでたくさんの本を読んできた。しかし私が本を読む理由は娯楽ではなく、新しい言葉に出会うためだ。だから私は気に入った言葉には線を引きながら本を読んでいる。
今このエッセイを書くために、この本を久しぶりに本棚から取り出し開いてみた。中に書かれているさまざまな言葉を読んでいると、これらの言葉に出会った中学2年生の冬のことが鮮明に思い出された。
人々はよく、音楽や香りによって、さまざまなことが思い出されると言う。しかし、それ以上に言葉にもその力があると思った。
言葉には人を大きく変える力がある。言葉には人が生きる世界を大きく広げる力がある。
中学2年生だった私がそのことに気づき、それからの私の人生を豊かにしたくれた言葉に出会うきっかけになったこの本は、間違いなく今の「私」をつくった本である。