「たぬき顔」に生まれた私。得をする顔だと今は思えているけど…
「たぬき顔」。この言葉を聞いたことがあるだろうか。おそらく、このエッセイの読者層の大半はお聞きしたことがあるだろう。
調べてみると「愛らしく親しみやすい顔」「男性にモテる顔」「キュートで柔和な印象を与える顔」という抽象的な内容の他、「下膨れの頬」「低くて丸い鼻」「二重まぶたの黒目がちなどんぐり眼」「ふっくらした唇」と具体的な顔のパーツも挙げられている。
雑誌やWebサイトでも特集が組まれているように、現在流行している顔の一つであることは間違いないだろう。
思えば、私は大学時代に部活やゼミ、アルバイト先で「たぬき顔だね」と言われることが多かった。加えて「可愛い」「美人」と言われることも度々ある。仲の良い友人からは親しみを込めて「たぬきちゃん」と呼ばれることもあり、有名なサイトのたぬき顔について解説する記事に、私のインスタグラムの写真が引用されたこともある。知らない人から「アイドルの方ですか?」「女子アナの方かな?」と言われたこともある。
男性に人気があったかどうかは割愛するが、今現在、私の顔は「たぬき顔」といった顔の個性の1つとして受け入れられている。稀に美人扱いをされることもある。実際に、親しみやすい素朴な顔のためか旅行者に道案内をすることは度々あり、子どもにも懐かれやすい。
今ではとても得をする顔立ちだと思っている。しかし、そのように考えることができるまで長い道のりがあった。
否定されていた中高時代。拒食症寸前になるほど、自分の容姿が嫌いで
10年前、時はKPOP最盛期。当時はスッキリとした輪郭に整った目鼻立ち、脚は細ければ細いほど良いというくらい華奢な体型が持て囃されていた。
この時、私は中学生だった。当時の「美人」の基準からかけ離れていた私は、同級生や先輩からの様々な心無い言葉に傷ついた。入学当時の第一印象では美人や可愛いといった褒め言葉どころか、ぶりっ子と思われ男好きだと勘違いをされることが多かった。
また、人間関係が構築されてきた夏休み以降は「大して可愛くないのにモテている」「特に美人な顔ではないのに調子に乗っている」「モテない男にはモテそう」「地味顔」など多様な悪口を言われていた。
特に、顔がデカい、丸くて太った顔、低い鼻など具体的なパーツを指されて悪口を言われるのはとても堪えた。
輪郭も鼻や頭の大きさもダイエットや整形で簡単に変えられるパーツではない。かなり落ち込んで拒食症寸前にまで陥ったことがある。
高校時代も中学時代に引き続き、悪口を言われ続けてきた。そのため、写真嫌いで容姿に全く自信がない学生時代を過ごしていた。
風向きが大きく変わったのは大学に進学してからである。この時、丁度たぬき顔に該当する女優が次々と大ブレイクし、たぬき顔の大流行が始まった。
ここで私の容姿も「不美人」といった評価から、「美人、可愛い」の範囲に入るようになったのだ。
新入生勧誘で容姿を褒められ、アルバイト先でお客さんに気に入られ、友人に勧められ福娘やミスコンも経験した。大学の4年間を通して笑顔と行動力、積極性が増えて、多くの経験を通して自信をつけることが出来た。
学生時代の辛い記憶はもちろんあるものの、それを塗りつぶしてしまうくらい明るく前向きな気持ちになった。
「好みはそれぞれ」とスルーできるように。たぬき顔の言葉に感謝
現在でもたまに容姿の悪口を言われることはあるが、「人それぞれ好みはバラバラだからね」とスルーして対応出来るようになった。たぬき顔そのものの悪口に関しても、僻みや嫉妬という言葉で片付けられた。
ある程度の自信がついたのだろう。反面、たぬき顔の流行がなければ今でも私は醜い人という扱いのままで悪口を言われ続けたかと考えると、やはり暗い気持ちになる。
私は世間で言う、不美人と美人の両方を経験してきた。運で美人というポジションを得られたようなものだが、不美人と言われるより美人と言われたほうがやはり圧倒的に嬉しい。不美人はどうしても暗い気持ちになってしまう。トラウマをフラッシュバックしてしまう。
最悪の場合、拒食症や心の病気になってしまい命に関わる場合もある。だから私は絶対に人の容姿の悪口を言わないと決めている。当たり前のことだがつらぬいていきたい。
そして自分の容姿の絶対的な味方は自分しかいないから、どんどん自分を褒めていきたいと思う。
自分の容姿に対してこれまで様々な評価をされてきたが、私による私からの評価は今までの悪評すべて吹き飛ばすものだと信じている。そこそこ私が強くなれたのは「たぬき顔」のワードのおかげである。
私は、たぬき顔というワードが大好きだ。自分を救ってくれたワードであり、縁起物で愛嬌満点のたぬきに似ていると言っても過言ではない顔という言葉だからである。もはや生きている時点で100点満点の顔と捉えても良いくらいである。
たぬき顔を流行らせた人、ありがとう。
たぬき顔という言葉をつくった人、ありがとう。
たぬき顔は1人の人生を救いました。