夏休みの読書感想文――それは誰もが一度は聞いたことがある言葉であろう。今から15年前の8月、当時小学5年生だった私は、私の人生にとってとても大切な一冊になる本に出会った。
その本の題名は「トットちゃんとトットちゃんたち」。作者の黒柳徹子さんが、世界各地の紛争地帯や貧困地域にいる子供達を訪ね、そこで見て聞いて感じたものを本にしたもの。
しかし本屋さんでその本を手に取った時の私は、紛争という単語をほとんど聞いたことがないばかりか、貧困がどういうことかすらよくわかっていない10歳の少女だった。
面白いと思って手に取った本が、私に新しい世界へ導くことになった
私がその本の感想文を書こうと思った理由はとても単純だった。
当時、私の学校では黒柳さんの「窓際のトットちゃん」という本が流行っており、同じ作者の似たような題名の本なら面白いに違いないと思ったからである。
しかし、こんなふとしたきっかけが、私に今まで知らなかった新しい世界を見せ、その後の私を国際開発の世界に導くことになる。
本の内容は今でもよく覚えている。特に印象に残っているのが、ボスニア・ヘルツェゴビナの内戦の話だ。もちろんその本を読むまで、そんな国名を聞いたことはなく、当時はそれが世界のどこにあるのかわからずに、部屋に貼ってある世界地図で場所を探した。
そんなボスニア・ヘルツェゴビナの内戦では、兵士が敵国の民家に侵入した時に、子供部屋にあるクマのぬいぐるみの中に爆弾を仕掛けるという。一時退避から帰ってきた子供がそのぬいぐるみを抱きしめたときに、爆弾が爆発し、子供とその近くにいる大人たちを殺すために。
たくさんある話の中でもこの話が特に印象に残っているのは、当時私もぬいぐるみが大好きで、よく祖母とぬいぐるみ遊びをしていたからだろう。
ぬいぐるみというふわふわしていて可愛くて、あたかも平和の象徴のような存在が知らず知らずのうちに兵器に変えられてしまう世界。その時私は初めて戦争というものがどういうものか知った。
そして何より衝撃だったのが、その本に出てくる子供たちが、私と同じくらいかそれよりも小さい子供たちということ。「トットちゃんとトットちゃんたち」にはたくさんの写真が載せられており、自分と同じくらいの子供たちが自分とは全く異なる環境で生活している様子を見てとることができた。
飢餓のイメージを覆した写真。「何も知らない」と途上国に関心を持つようになった
ぬいぐるみの話以外に印象に残っている話がもう一つある。それはある国で十分な食料が得られずに栄養失調に苦しむ子供たちの話。その章に添えられた子供の写真を見て、私はとてもびっくりしたのを覚えている。
その写真には栄養失調でお腹がぽっこり膨らんだ子供が写っていた。それまで、栄養失調や飢餓といえばガリガリになるというイメージがあったが、極度の栄養失調ではお腹に水が溜まり、その結果、ぽっこりお腹になるという。
当時持っていた自分の飢餓のイメージが覆されて、幼いながらにも私は「自分は途上国について何も知らない」と思ったのを覚えている。
黒柳さんのわかりやすい文章とたくさんの写真から、自分と同じ年の子が地球のどこかで私と全く違う生活をしているという衝撃を受けたその日から、私は自然と途上国について関心を持つようになった。
月日が流れて大学受験の際には、途上国で起こっている様々な問題について知りたい、そして解決したいと思い、開発学を専攻し、大学卒業後は実際に途上国の現状を見てみたいという思いから青年海外協力隊に参加した。そんな私は今、大学院で更に深く開発学について学んでいる。
紛れもなく黒柳さんの「トットちゃんとトットちゃんたち」という本は私の生き方に深く関わり、今の私、そしてこれからの私を作っていくきっかけになった本である。