これは、ひとりの「わきまえない女」が職場環境に悩んで「わきまえる女」になり、そしてまた「わきまえない女」に戻るまでの回想です。
今回、できれば思い出したくなかった記憶をあえて言葉にしたのは、かつての私のような「わきまえる」女性たちに、逃げてもいいんだよ、わきまえる必要なんてないんだよと、自身の経験を通じてどうしても伝えたかったからです。

セクハラ、パワハラが当たり前。どんどん信用できなくなっていった

2020年6月、私はコロナの影響で同期に会えないまま、テレワークでの新入社員研修を終えて現場に配属されました。

IT業界のゼネコンとでも言ったところでしょうか、組織として成熟していたその現場は、令和のご時世にもなって「昭和のかほり」漂う――つまり、セクハラやパワハラが当たり前のように存在している、そういう現場でした。
学生時代に教授と仲が良かったことも手伝って、現場のオジサマ達に特に苦手意識をもたず、思ったことをずけずけと言う私は、良くも悪くも周囲から少し浮いていて――まぁ、「可愛がって」いただいたのだろうなと思います。

海外留学を経て、自分の考えや経験をオープンに話すことに抵抗が少なくなったことも影響していたのでしょうか、私自身は自分の意見を大きな声で言うことや、自分のミスを相手にきちんと指摘してもらうこと、相手のミスを指摘することについて、基本的に抵抗がありません。いわゆる「わきまえない女」に分類されるタイプです。
そういう性格も手伝って、最初の頃の新人いじりは、「〇〇さん、それセクハラですよ!」だとか、「今ICレコーダーがあればセクハラ相談窓口に直行だったのに〜」とうまくやり返していました。

しかし私の直属の上司が、どうやら私を話題に「背の高い女はヤリやすい」と噂していたことを同期から聞いてしまったり、指導担当のトレーナーから初任給を浮気相手とのラブホ代につぎ込んだ話を聞かされた挙句、「なんで俺に女の子のトレーナーをやらせるのかわからない」と(もちろん冗談の体でしたが)言われたりと、小さなことが積み重なり、私は本来、仕事の悩みを相談できるはずの人たちを、どんどん信用できなくなっていきました。

「わきまえない女」だった私は、いつのまにか「わきまえられる女」に

そこに、現場責任者から任された仕事がどうにもうまく進められず、2ヶ月ほど毎日のようにフロアで叱責されるという状況が発生しました。
現場責任者は決して悪い人ではありませんでしたが、熱が入りすぎて、言っていることは間違っていないのですが言い方がどんどんキツくなり、ボルテージもどんどん上がっていく方でした。「あの子、大丈夫なの?」と離れた島の人から心配される程度には、私は毎日、大変に熱の籠った指導を受けていました。

本来の私なら、そうなってしまった原因を冷静に分析したうえで、どのように対応すればいいのか、上席に意見を仰ぐことができたと思います。
しかし、当時の私はどこかメンタルがおかしくなっていて、すべてが自分の責任だと背負いこみ、うまく相談できずに「私ができないのが問題なので、大丈夫です」と言うばかりでした。

今思えば、出勤のたびに好みの女の子に声をかけに行くトレーナー(既婚)や、先述の言葉を放ち、社内チャットで仲の良い社員とセクハラ談義に盛り上がる上司のことを、表面上取り繕えても、信用できなかったのだと思います。
そうやって、「わきまえない女」だった私は、いつのまにか「わきまえられる女」になり、そうしてわきまえる度に自分の心が蝕まれていくような、ずぶずぶと暗い泥沼に沈んで行くような、そんな気持ちでなんとか職場に通っていました。

転職し、心と体が健康に。やってみたいことにどんどん挑戦していきたい

このままでは私がダメになる、そんな気持ちもあって転職したのが、去年の暮れのことです。
今の小さなベンチャーは社長がワーキングマザーで、一緒に仕事をするのは気のいい女性か、仕事にしっかりと向き合っているおじ様たちです。フルリモートな業務体制も手伝い、セクハラもパワハラも発生し得ないと、今のところは思っています。
仕事の内容も、自分がやってみたいと思った業種に挑戦したこともあり、日々充実しています。周りの顔を見て、本当は必要ないのにやっていた無駄な残業もなくなり、自分の心と体が健康な方向に向かっているのを感じます。

そうして最近では、前職だったら無理だと諦めていたようなタスクに、「やってみたいです」と手を挙げられるようになってきました。吸収したことを実践で試し、学びを得て成長する日々は、失った福利厚生やボーナスよりもずっと輝いています。
私は、誰に遠慮するでもなく、やりたいことをやってみたいと言える「わきまえない女」に再びなることができたし、これからも自分に正直に、やってみたいことにどんどん挑戦していきたいです。

私の受けていたセクハラ、パワハラはいわば「もどき」とでも言えるもので、本当につらいセクハラ、パワハラに悩んでいる人からすれば、大したものではないかもしれません。
それでも、自分で自分を否定するようになったり、職場に行くことを考えただけで朝食がのどを通らないような状態になっている人がいたら、まずは周囲の環境を疑って、必要であればすぐに逃げ出してください。
あなたが思っているよりも、あなたはつらい状況に置かれているのかもしれないのだから――あなたが「わきまえる」必要なんて、どこにもないのだから。