生まれたて野ウサギのホップスが、住処の森で1年間を生き抜く。この物語が、私を掴んで離さなかった。

好きなウサギが出てくる本。楽しみに読んでみると期待は裏切られ…

「15ひきのウサギ物語」(F・ザルテン作)。小学校の図書室に置いてあった。
この本を初めて手に取った理由は、動物でウサギが一番好きだから、という単純なものだった。
ウサギが15匹も出てくるなんて、どんなに可愛らしい内容だろう。しかし、幼気な小学生だった私の期待は裏切られた。

木々や原っぱ、ウサギのみならず鹿や狐、その他様々な自然溢れる森の描写は美しい。時折現れる挿絵も細やかで愛らしい。
15匹のウサギは、作中でほとんどが死ぬ。カラスにやられて、鉄砲で撃たれて、罠にかかって。人間の子どもによって捕らえられ、飼われるも衰弱死する場面には息が詰まった。
思い返せば、この本が残酷な死を初めて教えてくれた。ウサギは森の中で、とても弱い。草を食べるだけで他の生き物に迷惑をかけないのに、いつだって自分たちの命を脅かされている。

「おまえ、用心するんですよ。ほんとうに、ちょっとでも油断をしてはいけません」

ホップスの母の言葉は、全編を通して重んじられる。それでもか弱いウサギたちが辿ってしまう末路に、とても悲しい気持ちになった。
しかし、胸がきりきりする分だけ、ウサギたちが生きる楽しみを全身で感じるシーンが鮮やかになった。

小学校を卒業して読めなくなった本に昨年やっと出会うことができた

繰り返し、百回は読んだんじゃないだろうか。
小学校を卒業するとき、この本を借りられなくなることが悲しかった。本屋で購入しようにも当時既に絶版だったし、近くの図書館で取り扱いもしていなかった。その後親に頼み、何件かの古本屋へ連れていってもらったが、出会うことはなかった。

大学生になり一人暮らしを始め、ネット通販をよくするようになった。課題の書籍が本屋で手に入りにくいから、という理由からだった。
ある日、ふと思い出し、「15ひきのウサギ物語」を検索した。在庫なしの表示。中古品も売られていなかった。久しぶりに読みたいなと、それから時々この本の商品ページを覗くようになった。
昨年、やっと中古品が出されているのに巡り会えた。すぐさま購入し、到着までの数日間、本当にあの思い出の本なのか、と疑いと期待とで落ち着かなかった。

今日も私は楽しく生きる。心を病んでも回復できたのは本のおかげだ

小学校卒業後、15年の月日が経っていた。到着した小包を開ける。記憶と寸分違わぬ表紙。
大人になった今でも、この物語に心が動いた。柔らかなウサギたちが死んでゆく度に、昔よりも鮮明に映像が浮かんだ。
主人公がウサギだから、その死は悲しいものと扱われる。鷹にとっては、彼らは餌で食べなきゃ飢え死ぬのに。人間がなぜウサギを鉄砲で撃ったのか、理由は描写されていないけど、きっと生きるために食べたり皮を服にしたりしたのではないだろうか。
命を頂いて生きている。満たしてくれる彼らに感謝する。
小学生よりも幼い頃から、当たり前のように教えられてきた。それを言葉としてではなく、心と行動も伴ったのは、この本を何回も読むうちに腑に落ちてしっかりと自己に根付いたからだ。

そして有り難くも頂き、生きながらえている私自身の命を粗末にするなんて、彼らに顔向けできない。心を病んだ時期もあったが、現在回復できたのは、この本の教えが底にあったようにも思う。
今日も私は楽しく生きる。春になり芽吹いた緑の中、喜びに跳ね回るウサギたちに敬意を表して。