「女なら、付き合っているかどうか聞かれた時は、色っぽく!」と、叱られた。私が昔、イベント会社で働いていた時のことだった。

新人の頃、男性先輩社員とイベント設営準備をやっていた時、会場担当のマダムに「男女で設営なんて珍しい。もしかして付き合ってるの?」と聞かれた。私は即座に「いえ、付き合ってないです」と言った。
単純にその日、設営の新人指導ができる先輩が男性だっただけで、カップルだから組まされたとかではない。私は事実を言った。しかしなぜか現場の空気は凍った。

「女なら、色っぽくミステリアスに」と部長に叱られた

マダムは「あなた、それ即答しちゃダメよ!」と私をたしなめた。先輩の男性社員も苦笑いしながら、「あはは、フラレちゃいました」と言った。もう一度言うけど、私は事実を言ったまでなんだが?
マダムは「そういう時は男性を立てなきゃねえ」とブツブツ言っていた。私は「変なマダムだなあ」と思いながら設営作業を続けた。しかし男性の先輩社員は忙しい中、この顛末を部長に報告しに行った。
そして私は後日、この件で部長に呼び出されて叱られた。「君と先輩社員が何もないのはわかっている。でもね。女なら、色っぽくミステリアスにしていかないと。付き合っているの?って聞かれたら、さあ、どうなんでしょう?って微笑んで色っぽくしなさい!」と真剣に叱られた。

「は?」と声が出そうになった。「え?色気出せってこと?」と頭がグルグルした。
怪訝そうな表情をしている私に、社長はさらに「男性先輩社員くんにも、女の君からの好意が全くないと伝わるのも失礼だし、俺が男性先輩社員くんだったら悲しいぞ〜」と、言った。

「これが噂のセクハラってやつか」。顔が死んでいく日々

男性先輩社員にワンチャンあるかも!と思わせろということか。
もちろん、そういう風に異性をドキドキさせることが主な仕事も存在する。私自身も応援している「推し」の「大好きです!」という明らかなリップサービスで楽しんでいるから心躍ることはわかる。
でも私、イベントスタッフとして仕事してるんだが。色恋営業って私の業務か?私の仕事はイベントが成功するように機材を組んだりすることじゃないのか?女だからやれってことになってるよね?
問い詰めたかったけど、こんなことを言ったらクビになるとわかった。「そうなんですね。すみません」としか言えなかった。何なん。これは。

それから「かわいいから一緒に仕事したいと思われるように振る舞え」と指導されることが多くなった。また、クライアントが喜ぶからとポーズを指定されて写真や動画を撮られた。
「流石に嫌だ」と断ったが、少しだけだからと何度も言われて、さすがの私も空気が悪くなったことを感じて仕方なく応じた。
本当に何なん。いや、答えはわかってる。セクハラってやつや。典型的すぎて、他人事のように「これが噂のセクハラってやつか」と感じた。でも同時に「本当に気持ち悪い。何なん?」という怒りが沸く。
日が経つにつれ顔は死んだが、「そんな嫌そうな顔してたら周りに気を遣わせる。可愛く!」とも言われた。セクハラを当たり前のように強要する会社に先輩に上司にクライアント。

セクハラされたら「それは何なん」と絶対に聞いてやる

「これはセクハラ」と自分の中で答えはあっても、あえて藤井風さんの名曲「何なんw」の「それは何なん」のフレーズを大音量で流して、問い詰めたいぐらいだった。
ちなみに「それは何なん」とは岡山弁で「それはなんなのですか?」という意味だ。どういうつもりで言うとるんですかと反撃すればよかった。
クビになりたくなかったから女を強要されて、謝って、なんとか耐えていた。だがもう我慢しない。結局、会社は「社会人としての会話ができていない」と辞めさせられた。セクハラを我慢してもダメなもんはダメだ。
というか、これくらいのセクハラに耐えられないなら、社会人としてアウトと思われていたのかもしれない。いやセクハラに耐えられるのが社会人だったら、そんな社会は崩壊した方がいい。

私は自分自身が、色っぽいところを見せたいと思ったときにしか女を出さない。絶対に「他人に強制されて仕方なく」「嫌だけど後々のため」なんて理由でやらない。
もし今後、「女だから」という理由で強要されたら「それは何なん」と絶対に聞いてやる。本当はその場で相手を論破したいけど、そこまで頭を回転させる冷静さは保てない。
でも「それは何なん」くらいは言える。嫌なことをされたら、相手を威圧する姿勢も持つ。そんな女であれ。