自分は恋愛に関わるのが苦手だ。いや、恋愛が苦手なのではなく、人に特別な感情を抱くのが怖いのかもしれない。
友達は多い方だが、特別に大切だと自覚したことがなかった。所詮は他人。自分以外は家族も含め、みんなそれぞれに生きている他人。そんな感覚が近い。そんな私も、ある出来事をきっかけに、本当に大切にしたいと思える人ができた。

一人暮らしの友達の家で、菓子作りをすることになった

僕はいま大学生だ。趣味は菓子作り。大学に入ると趣味が共有できる友達が何人かできた。高校までは体育会系の部活に専念していたので、新しい楽しみができて、とても嬉しかった。
ある日、その友達のうちの1人と菓子作りをすることになった。彼は一人暮らしで2人で作業するのにも勝手がよいので、彼の家で行うことにした。誰かと菓子作りをするのは初めてで、前日はそわそわしてなかなか寝付けなかったほどだ。

翌日、高揚した気分のまま彼の家にあがった。一通りの作業を終えて、冷蔵庫でその菓子を冷やす時間があった。冷えるまでしばらくかかるため、寝不足で疲れていた僕は少し休むと言って、ベッドを枕代わりにうつ伏せで寝る体勢になった。
まあ、人がそう簡単に寝られるわけがない。たぶん10分くらいだろう。まどろむ準備をしていたころだ。彼の様子がおかしくなってきた。

僕が少し休んでいると、彼の頭が僕に近づいてきて吸っていた

目視したわけではないから、僕の感じた気配と聞いた音などからの話になる。彼は僕の頭を撫でていた。なんだ。何が起こっている。なにかの気の迷いか。わからない。
とりあえず無視して眠りこけていると、だんだん彼の頭が僕に近づいてきた。吸っていた。僕の首筋に触れるか触れないかの距離まで近づいて。若干の身の危険を感じながらも無視し続けようとした。

しばらくすると、彼は僕から離れた。ほっとしたのも束の間。引き出しから何かを取り出すような音。ぴりり。その音がした後、彼はトイレにこもったようで、おそらく10分ほど、帰ってこなかった。僕は瞬時に理解した。
そして数時間前の高揚感は、一気に彼に対する嫌悪感に変わっていた。

家に帰っても話せる人はいなくて、ストーリーに「たすけて」と打った

家に帰っても話せる人はいない。こんなこと話せない。でも、誰かに話さないと自分が壊れそうだ。インスタグラムのストーリーに、「たすけて」とだけ打った。
とにかく誰かに聞いてほしかった。最初に反応が来たのは、高校からの部活の友達で同じ大学に通っている友達だった。
彼のことは良い友達だとは思っていたし、自分自身その時はすでに心が限界に近かった。しかし、やはり話を切り出すのには迷いがあった。それを汲んで、彼はずっと待ってくれていた。僕が話す準備ができるのを待ってくれた。ぽつりぽつりと、断片的に、しかし自分の感じたことをありのままに話した。
変な目で見られるかもしれない。ダサいと思われるかもしれない。とても怖かった。

でも、その心配はいらなかった。むしろ彼は僕にとても親身になって、すり減っていた心を覆ってくれた。涙が出た。止まらなかった。
安心して怖がっていいんだと思ったからだ。この人にならなんでも言える。心をすべて見せたい人だ。いままでに持ったことがない、特別な感情だった。
友情だとか、恋愛だとか、意味づけするのは嫌いだ。でも、これだけは明確だ。僕は彼が好きだ。