私は3人兄弟の末っ子で、よく他人に甘え上手と言われることが多い。しかし甘え上手というより、甘えられそうな人は選んでいるし、負担にならない要求に留めているつもりだ。
本当に困った時は、なかなか人に話したり頼りにすることができず、自分で解決しようとしてしまう。そういう風に育ってきた。
そんな私が人生最大の危機にあったのは数年前のこと。
一人しかいない営業所で、脂汗が出るほどに激しくなる腹痛
当時観光系の受付で働いていた私は、出社しカウンターの準備をしていた。
準備は一人で行い、午前中は一人で接客する。もう一つの営業所から人が現れ、昼交代を回すといったものだった。
その日は朝からなんとなくお腹が痛く、生理でも来るかなと思っていた。寒い冬の日だったので、ホッカイロ代わりに温かいお茶を買って腹部に当て、どうにか痛みが紛れるのを待った。
しかし、どうにもこうにも痛みが治らない。それどころかどんどん増し、痛すぎて吐き気まで催してきた。生理痛は酷いほうだがここまでではないし、痛んでいるところは胃のほうだ。
カウンターを開く数分の間、バックヤードで私は痛みと闘っていた。電話が鳴る。業務前に営業所同士で電話で挨拶をし、業務開始となるのだ。
ふと、今日の勤務者は誰だっけ……と考える。主任だったので、一応今の状況をありのままに伝えた。
「大丈夫?もし酷ければ、また連絡くださいね」
きっと治ると信じて、電話を切った。幸いにもその日お客さんは少なく、このまま仕事していれば治るだろうと信じていた。
一人で任せられている以上、人を呼ぶには誰かが出社しなければならない。しかしその後も脂汗が出るほどになり、ついにはしゃがみ込んでしまった。
冷静な対処をする女性のお陰で病院に運ばれ、大事には至らずに済んだ
「これは、ただお腹を下すとかそういうものじゃない。やばい」と直感的に思い電話をかけた。その時電話に出た女性は、普段から仲良くして貰っていた穏やかな人だった。「どうしましたか?」。
「先ほども伝えたんですが、体調がやばいです……」と言うと、その人は冷静に「分かりました、すぐ行きます」と一言言い、電話を切った。それから10分ほどしてその人が様子を見に来てくれた時には、バックヤードでほぼ床に突っ伏していた。
その女性は慌てることもなく、冷静に「大丈夫?すぐ救急車呼びますね」と救急車の手配をしてくれ、私の携帯から夫に連絡もいれてくれた。お陰で数分後には救急車で病院に運ばれ、大事には至らずに済んだ。急性腸炎で、数日入院となったのだけれど。
あの時、私は助けてくれたのがあの人で良かったなと心底思った。母親ほどの年齢の人で、似たような人は他にもいるけれど、慌てず騒がず必要なことだけをしてくれたことがありがたかった。
普段から誰にでも優しく、朗らかな人。少し仕事は遅いと周りに言われていたが、ああいったときに冷静に動けるというのはすごいと思う。私なら動揺を隠せていないだろうし、主任に聞いてから動くと思うのだ。後から夫にも聞くと、電話越しに冷静でいてくれたお陰で、「倒れた」と聞いても冷静に動くことができたと話していた。
動揺は伝染するものだ。私も、人に頼られたり助けを求められた時には、あの日の彼女のようにありたいと思う。