初めから好きじゃなかった。
出会ったのは、キャバクラの接客中だった。彼は会社の付き合いで来ていて、私が横に座ると少し距離を空けていてくれたり、女にガツガツしていなくて、紳士な人なんだなと思っていた。話しやすいし、面倒くさくもないし、また来て欲しいなと思って連絡先を聞いて、私から連絡をとった。
会うと必ず「可愛い」と言ってくれて、とても愛情深い彼
何回かお店で会って、個人的にデートも行った。食べ物の趣味も合うし、美味しいお店を教えてくれるし、いい時間を過ごしているなと思っていた。
3回目のデートで「僕は人の悪口を言ってしまうし、ダメなところもたくさんあるけど、Mちゃんが怒ってくれるからMちゃんと一緒にいると変われる気がするんだ。だから一緒にいてくれないか?」と言われた。
このような告白は初めてで、その時は好きだと言われるよりも素敵なことのように思えた。そして、私は元々自己肯定感が高く、ポジティブな人間だったので、私を選ぶ彼はお目が高いなとすら思っていた。私と彼は付き合うことになった。
私はお小遣いが稼げるし、男性からチヤホヤされるのが楽しくてキャバクラで働いていたので、彼と付き合って少ししてキャバクラを辞めた。
付き合ってみて、彼はとても愛情深い人だとわかった。会えば必ず可愛いと言ってくれるし、私が彼の言うことに反論したりすると「そう言ってくれるMちゃん好きだな」と怒られているのに、喜んでいたりした。私は変わった人だなと思っていたりしたが、その変わっているところが面白いなとも思っていた。
私と一緒にいたら変われる気がすると言っていたに…全然変わらない
半年くらい付き合ってみて、不満に思うところがあったりもしたけれど、別れようとはならなかった。旅行に行ったり、クリスマスも一緒に過ごしたり、恋人らしい思い出を重ねていった。
けれど、だんだんと違和感が募っていく。最初になんか違和感に思ったのは、彼が一向に変わらないこと。私と付き合う時に、私と一緒にいたら変われる気がすると言っていたにもかかわらず、全然変わらない。いつまでも悪口は言うし、自分に自信がない。
自分に自信がないのはまだわかるけれど、とても卑下して話してくる。そうすると、そんな彼と付き合っている私はなんなのだと思うようになった。自分の価値を下げると、彼女である私の価値も下がる感覚を共有できなかった。
もちろん、それに対して「なんでそんなこと言うの。やめて」とちゃんと伝えていたが変わることはなかった。
彼の「考え」がよくわからなくて、次第に込み上げてきた怒り
そして、私が一番衝撃を受ける出来事が起こる。彼といつものようにご飯を食べていた時に、彼は私にこんな話をした。「この前牛丼屋さんでご飯を食べてる時に、レジの店員さんがお客さんにすごく怒られてたんだ。僕は可哀想だと思って、家に帰ってから菓子折りをその牛丼屋さんに持って行ってあげたんだよ。Mちゃんにもそういう人になって欲しいんだ」。
……………………は?
残念ながら、私の心には何も響かなかった。彼が何を私に伝えたいのか、いまいちわからなかったので、もっと詳しく聞いてみたが、腑に落ちなかった。
牛丼屋のレジの店員さんとは顔見知りでもなんでもなく、帰り際に声をかけたわけでもなく、ただ菓子折りを持って行っただけらしい。
店員さんも突然知らない人から、理由も聞かずに菓子折りを貰ったら怖いだろう。菓子折りを持って行くよりも、その怒られてる時やその直後に声をかけてあげるのが一番嬉しいんじゃないか? と私は思い、彼の考えがよくわからなくなった。そして、そういう人の為に行動した僕のようになって欲しいということに、怒りが込み上げてきた。
自分に自信がない価値観を下げてる彼よりも、彼に下に見られていることにショックを受けた。彼は私のことなんて何も見てなかったんだなと、その時にやっと気づいた。私は彼が変わればいいと思って一緒にいたが、彼は私を成長させようと一緒にいたのだ。
きっとキャバクラで働いてたことも、彼の中で見下す要因になったんだろう。自尊心も高く、自己肯定感も高い私には、その見下されてる感覚が耐えられなかった。この価値観の違いで私は別れを決意した。
そして、別れを告げた。