大人になって、女友達におめでとうと言う時、一点の曇りもないおめでとうを言える人はどれくらいいるのだろう。とりわけ高校時代の友人に。

同棲を続けるべきか悩んでいた頃、高校時代の女友達から連絡が

小学校と中学校は地元の公立校だったため、偏差値も家の経済状況もバラバラだった。進学した東京の大学には色んな人がいた。出身も思想も大学にいる目的も多様だった。
なんとなく生い立ちや価値観が1番近いのは高校の友人で、その分社会にでてからはライバル視している節もあった。
なんのライバルかというと、大人の女性としていかにいい感じであるかというところだろうか。いい感じかどうかは安定した収入があるか、仕事にやりがいを見出せているか、素敵な彼氏がいるかなどの要素で決まったりする。

社会人になって数年経ち、高校時代の友人であるAから話したいことがあるからと夕食を誘われた時、私は同棲している彼氏との結婚について悩んでいた。
そろそろ同棲して一年たつが、プロポーズされる気配はなかった。だらだらと同棲を続けるのは親に面目もたたないし、けじめもつかないので同棲を解消するべきか考えていた。

Aの話は結婚の報告ではと、最近のSNSの様子から察しがついていた。
初めて近い友人からの結婚報告というイベントへのワクワクと、自分にない幸せを掴んだであろうAへの嫉妬が入り混じり、待ち合わせの駅に向かう道中もどういう心持ちでいればいいかわからなかった。
Aと合流しても落ち着かなくて、とりあえず私はにやにやすることにした。私達は駅の近くのイタリアンに入った。

華々しい経歴の彼氏に、百点満点のプロポーズ。友人の話に「完敗」

Aは華奢でこざっぱりしていて、小動物を思わせる美人だ。うさぎを飼っていて、たいそう可愛がっていた。好きな食べ物はキャベツで、本人もなんとなくうさぎっぽい。
高校生の頃、運動部だった私はお弁当だけでは足りず、よく売店で菓子パンを買って食べていた。Aに「一口いる?」ときくと遠慮がちにほんの少しだけかじる。かじったあとの小ささに、「うさぎがかじったみたいだな」とよく思った。

食べ物をいくつか頼み、ビールで乾杯する。
Aの左手薬指で光っている指輪にこちらから触れた方がいいのか考えていると、
「結婚することになった」
とAが切り出した。
聞けば仕事で数ヶ月アメリカに滞在している彼氏のところへ遊びに行った際、現地のディズニーランドでサプライズで婚約指輪を渡されたそうだ。
思っていた以上のものがきて私は面食らった。
彼氏はエリートだとは聞いていたけど、アメリカで仕事をしてるとはなんとも華々しい。Aは高校生の頃から年パスを持ってるくらいにディズニーが好きだ。大好きなディズニーをプロポーズの場所に選ぶところに婚約者のAへの愛を感じる。海外の、ディズニーで、サプライズで婚約指輪を渡すなんてかっこよさもロマンスも、インパクトも百点満点のプロポーズだ。

勝ち負けを意識したのはいつからか。素直に喜べなくても「おめでとう」

完敗だ、と思ってしまった。プロポーズをされない私と、最高のプロポーズをされたA。大袈裟に相槌を打ち、顔に貼り付けたにやにやがこわばらないように気をつけた。
いったいいつから私は勝ち負けなんて意識するようになってしまったんだろう。相槌を打つことに少し疲れてきた頭でぼんやりそう思った。高校生の頃は、Aと過ごしてるその日その日がただ楽しかったのに。
昨日テレビで見たギャグ。妙な雰囲気のあるAの落書き。英語の先生の変な癖。くだらないことでけらけら笑っていた。
あの頃の私なら、心からAを祝福できるだろう。私はあの頃の話のネタより遥かにくだらないことを気にする、つまらない大人になってしまった。
だけどせめて今は、あの頃のままでAを祝いたい。

「空きっ腹で飲み始めたから酔いが早いわー。私ノンアルにするね」とそれらしい断りをいれて、烏龍茶を頼んだ。高校生はお酒なんて飲まない。
鉄板焼きに入っていた、Aが苦手な玉ねぎをがさっととって烏龍茶で流し込んだ。
Aはキャベツとしらすのアヒージョを小さな口でもそもそ食べていて、相変わらずうさぎみたいだと思った。
結婚式の悩みを話しているAは、とても綺麗だった。婚約指輪がよく似合っている。
「本当に、おめでとう」
あなたが誰かの妻になっても、いつか誰かの母になっても、あるいはそうでなくても、私達はずっと親友だ。