選択肢が多い高校3年生の私に新しい価値観を教えてくれた一冊の本
私は、ずっと何かを手に入れた結果と、その先に意味を求めていた。
勉強するのは出来るだけ良い大学に行って出来るだけいい職業に就くためだったし、それだけが明確に想像できる未来だったから、それ以外の物事に大した興味を抱かなかった。
高校3年生の時の私の前にあった、たくさんの大学と学部、その先の将来についても、どの道に意味があるのか有利であるのか、私が選択基準に出来る尺度はただそれだけだった。否、長い間押し殺した感情ではそれ以外の選択基準を見つけられずにいた。
そんな私に新しい価値観を教えてくれた、1冊がある。喜多川泰さんの「手紙屋」という小説だ。
題名の示す通り、主人公の悩みについて手紙のやり取りという形で相談に答えてくれる手紙屋と、そのやり取りを通しての気づきや成長が描かれているという物語だ。
中でも私の印象に残っているのは、一度作ることを決めたら、それが良かったのかどうかは関係ない。振り返るのでなく、まずは完成させることだけを考える。そして、手に入れた後で、その先の事を考えればいい、という内容の手紙だ。
結果を求めて余裕がなかった私に、未来を考える楽しさをくれた言葉
それまでずっと結果だけに意味を求めていた私は、いつも手に入れた後にどうするかを考えていたし、本当に手に入れられるのか、その価値が変わっていないか常に不安を抱いていた。しかし、この言葉はまっすぐに結果の意味だけを求めなくてもいいのだと伝えてくれた。
そういう考え方もある。結果にしか意味を求めていなかった私は何処かでずっと緊張していたし、余裕がなかった。でも、一度決めたら、結果の意味は手放して良いんだと思うと、続ける事、その先の未来を考える事がずっと楽しくなった。
結果の意味ではなく、心惹かれるかどうかを基準に決める事。そしてそれを手に入れるまで続ける事。あの言葉に出会いその2つを意識するようになったから、私にとって「決める」という事がすごく重要になった。
「決めた」という事実だけが「続ける」事の理由になるのだから。でも、いろいろな事がアッという間に変化していく世界では、「決める」瞬間に手に入れた後の意味を計る事は難しい。だからこそ、それまでの私はずっと不安だったのだから。
考えた方を変えたおかげで、時間や経験がちゃんと心に残るように
意味は手に入れた後に考える。そう思うようになったいつからか、手に入れた結果の価値ではなく、続けられるかその時々の自分の心が惹かれる物かを基準にするようになった。
そんな風に、私の印象に残って少しずつ形を変えたあの言葉は、心が惹かれる物を選んでもいいのだと教えてくれた。
そして、心が惹かれて選んだ物は、たとえ手に残った結果の価値はなくても、楽しかった時間や経験がちゃんと残る事も今ではちゃんと知っている。
思えば、緊張して余裕のなかった私は、心惹かれても意味のないと判断した物をたくさん掴み損ねてきた。手に入れた後の意味では決めない。意味はいつか変わってしまうかもしれないから。
そして、本当は結果に意味のある物はそんなに多くなくても、幸せになれる事に気づいたから。