小学三年生のある日。私は人生の大きな転機を迎えた

結婚、どう思う?考えた事がないと言うと全くの嘘になる。むしろ私は結婚についてよく考えてきた方だと思う。

結婚について初めて考えた時。それははるか昔に遡り、おそらく小学三年生の頃よりも前に私はその事について考えていた。将来の夢は可愛いお嫁さんになる、といった幼稚園児がみんなの前で発表するような漠然としたものではなく、いくらか具体的にどういった結婚をしたいのか考えていたように思う。

小学三年生は私の人生の大きな転機となった。それは本当に突然で、小説やドラマでよくある言い回しを借りると、その時のことを今でも鮮明に覚えている。私は、小学校が終わり家の炬燵で横になってアニメを観ていた。その時なぜか家には父方の祖母がおり、母は不在だった。

アニメのエンディングをなんとなく観ている視界の端で祖母が電話を取った。そして話が終わったのか、受話器を下すと唐突に私にこう言い放った。
「お父さん、死んだって」

キレやすい父と感情的な母の下で布団にうずくまった日々

私の父はよくキレる人だった。夫婦喧嘩が絶えなかったし、私に対してもよく怒っていた。

両親の出会いは職場で、なにがきっかけになったのかは分からないが、その関係は恋仲へと発展したらしい。交際が続く中、なかなか結婚しようとしない父に母の周りの人間が結婚するよう促したのだという。父はハンサムだった。きっと父は女に困ってはいなかったのだろう。おそらく父にとって母との結婚は不本意だったように思う。

父のような人と結婚したくない、と口に出すと怒られるので心の中で幼いながらに決心していた。同時に、母のようにもなりたくなかった。母は感情的な部分を持ち合わせており、一度それが爆発すると話が全く通じなくなるのだった。キレやすい父と感情的な母、そんな二人の喧嘩は最悪だった。

喧嘩が始まると子供がいることなどお構いなしに怒声を浴びせ合った。私は布団の中にうずくまり、ドキドキと鼓動する心臓と共に早く終われ、早く終われ、とひたすら願うのだった。父はそんな母から逃げるようにこの世を去っていった。

常に余裕があって、卑屈さがない穏やかな彼に心惹かれた

私が今お付き合いしている人は父とは全く正反対の性格をしている。非常に温厚で我を出すことが少なく合わせ上手な人だ。彼は大学の2つ上の先輩で、そういった性格に惹かれた私が共通の知人に協力してもらいアタックしたのだ。

彼はよく友人にお金持ちだと囃し立てられていた。どうやら彼の実家はなかなかのお金持ちらしかった。実際私も彼と付き合う中でそう感じる事が多々あった。それは持っている物が高価だとかそういった単純な事では決してなくて、前にも述べた通り彼の性格に滲み出ていたのだった。

彼は全く卑屈でなかった。誰かにチクリと嫌な事を言われたとしても、全く効いてない様子を見せた。私ならきっと言い返しはしないものの、ちゃんとその嫌味に気づきしっかりと相手から放たれた毒針が自分の中に突き刺さるだろう。彼は常にどこか余裕があったし、周りからの攻撃に真っ向から勝負するような人間ではなかった。裕福に育ってきた故の余裕だと私は彼に感心した。

幼少期の経験を糧にするために、理想の結婚を目指したい

そんな彼と結婚したい。彼となら思い描く夫婦像になれると思った。
周りから結婚の事を聞かれても私は迷うことなく、
「彼と結婚したい!」
と答えている。

私にとって結婚は幼少期を無駄にしない為の手段なのである。良い旦那さんを見つけ、私自身も良いお嫁さんになり、そしてのちに良い母になりたい。そうしていつか、今幸せなのも幼少期の経験があったからだよね、と思えるようになりたい。そうなる為に私はパートナーになり得る理想の男性を求め今日まで生きてきた。

私にとって結婚はいくらか計画的でないといけないのだ。もちろん彼のことは心から好きだと言えるし、これ以上にいい人に巡り会えるのかと思うことまである。

私はただ、子供には柔らかい布団の中でゆっくりとした鼓動を打って眠って欲しいのだ。そこまでの妄想と準備が私の中ではもう既にできている。