大学4年生になったばかりの春。就職活動が本格的に始まった頃のことです。

私は東京で一人暮らしをしていましたが、就職は地元の静岡でしようと思っていました。どんどん減っていく地元の人口を見て、どうにか食い止める方法はないのかと真剣に思っていたからです。都市圏に出た若者が帰ってきたくなる街とは何だろうかと日々考えていました。

しかし、そこには少しの迷いがありました。サークルで出会い、3年ほど付き合った彼氏が、親の会社の後を継ぐために地元の山梨に帰ることになったのです。
静岡から東京は東海道新幹線があるからすぐに行けるけれど、静岡から山梨は交通の便が悪い。遠距離恋愛になることを恐れて、私は行ったこともない山梨への就職を視野に入れ始めました。

尊敬する教授に就職について相談をしたが、ひとつ隠していたことがあった

その頃、ゼミのK教授から授業の伝達事項のメールが届きました。一番最後に「p.s.就活の相談も乗りますのでどうぞ」と書かれていました。
K教授は家庭を持ちながらも、研究熱心で授業も分かりやすく、さらには趣味のパン作りも極めていて、私にとってスーパーウーマンでした。就活の面接で「尊敬する人は?」ときたら即座に「ゼミナールの教授です!」と答えるくらいです。

「就活の相談させてください。お時間いただけますか?」と返信し、約束の日に研究室に向かいました。ぼんやりと、出身地でも通学先でもない地の会社に就職する、いわゆるIターン就職に興味があるという相談をしようと考えていました。
彼氏の話を出せば、大事な時期に恋愛にうつつを抜かすなと怒られると思いました。少なくとも両親がそのようなタイプだったからです。だから話の1番大事なところを隠す予定でした。
しかし、21歳の甘い考えはすぐに先生に見抜かれます。突然縁もゆかりもない山梨県に行こうか迷っていると言い出せば、彼氏のことだろうと思ったのでしょう。
「どんな彼氏がいるの?」「正式に婚約はしているの?」「結婚すると言ってもそれは口約束だからね」とやや厳し目の言葉が私に突き刺さりました。
突き刺さったのは心のどこかで私が思っていたことだったからだと思います。それをはっきりと言葉に変換され、現実を突きつけられて苦しかった。

厳しい言葉が私に刺さったが、私にとって何が必要かを明確にできた

でもK教授はその後優しく「こういうことは親には相談しにくいわよね」と添えてくれました。プライドが高くて、人前で泣いたことがほとんどない私なのに、気づけば涙がぼろぼろこぼれ落ちていました。
最後に、「あなたが今一番大事にしなければならないことは何?」と聞かれて出た答えは「長く働けて、自分がしたいと思う仕事ができる企業を選ぶこと」でした。K教授に言葉を口に出して伝えたら、その時から心が固まりました。

結局彼氏とは別れ、地元の第一志望の企業に就職をしました。
もちろん仕事は辛いこともあるけれど、自分がしたいと思うことをしているから後悔はありません。
あの時、K教授を頼って相談していなかったら、私を律してくれなかったら、就職先という人生の大きな選択を間違えていたかもしれないと思います。