28才になったことに、自分がまだついてこれていない。
「うんち」で永久に笑えるし、かわいいおままごとセットを見ると、買えないことも狭い部屋に置けないことも分かっているけど胸がときめいてしまう。
恋人からも家族からも上司からも、少し幼いと言われることもあり、存分に「妹キャラ」を発揮し生きてきた。
でももうキャラチェンジの時が刻一刻と迫っているかもしれない。
いつもの車内をきっかけに、先週気づいてしまったのだ。
鉄板ネタで笑いを取るはずが、後輩の優しい返答に気づく力がスパーク
冬のある日、後輩の年下女子たちと一緒に取引先へ車を走らせていた。
「妹キャラ」の私はいつものように車内を盛り上げようとしくじり話をした。
この話は鉄板ネタで、いつもみんな「こら!ワタナベ!」と笑ってくれる。
みんなが笑ったら少し時間をおいて、「入社して6年、それが唯一のミスです」と真顔で返す。
そうするとそんなわけないと更なる笑いが起こる。今回もきっとおんなじシナリオ。
けれど後輩たちからの答えは、「元気出してください。ワタナベさんはいつもすごくて憧れです」だった。
後輩たちの優しい返答でワタナベの気づく力がスパークした。
――彼女らは私のことを完全に年上の大人だと思ってる、そして大人として距離を取られている。
確かにいままでずっと移動中の車内において、いつも私は最年少だった。
移動を共にする同性の先輩たちが、姉のいない私にはお姉さんのようで沢山甘えてきた。
「この会社にいる先輩たちは本当に姉キャラの人ばかりだ」と呑気に考えていた。
それに甘える一方で、「先輩たちは大人であるから踏み込みすぎてはいけない」とある程度の距離感を心得ていた。
その距離感はだいたい東京ー群馬間くらい。
行こうと思えば行けるし、関東チームには所属しているけど、いざ行くと意外と遠いな、でも行けないレベルではないという程度。
窓からの景色は見慣れた北関東道だけど、いつのまにか車内で私は最年長になっていた。
狭い車内で私と彼女たちの間には、見えない幻の3列シートがあった
妹キャラの使えない車内はいたたまれなかった。
狭いセダンの車内のはずなのに、運転席の私と後部座席の彼女たちの間には私にしか見えない幻の3列シートがそこにはあった。心なしか声も遠く聞こえづらい気がする。
でも幻の3列シートをどのようにして取り払えばいいのか、初めての経験すぎて私にはわからなかった。
だがそんなことばかり言っていられず、その後も私は「楽しくお話が出来たら、親しみを持って距離感を縮めてくれるかも」という思惑の元、とにかく話し続けた。
鉄板ネタもフルに活用した。話に集中しすぎて降りるべきインターチェンジを逃した。
そんな健闘もむなしく「目的地に近づきました、案内を終了します」というカーナビの声と共に私のトークショーは終わった。
結局、彼女たちの中にある「大人(私)との距離感」を縮めることはできなかった。
その距離感はかつての私が持っていた東京ー群馬間くらいだった。