視界の中に毛先が入るほど短く切った髪をなびかせて、軍服のような黒いコートで風を切って歩く。首筋に絡む髪の長さはそのまま。
私は、いや僕は、今日初めてウルフカットに切った。

僕のために見た目を選ぶ。中高生の時はこんな考えじゃなかった

二年前からコロナと共に女子大に通い始めてから、僕の髪型も服装も大きく変わった。
古着で柄シャツを買ってみたり、ロリータや地雷ファッションに興味を持って調べたり、最近は着物の着付けを勉強して普段着にしている。
ウルフカットに着物だなんて怒られてしまいそうだけど、僕はこれが気に入っている。
僕が好きなんだからいいじゃんって思っていながら、僕のために見た目を選ぶ。

思い返せば中高生の時、僕はこんな考えじゃなかった。中途半端に他人の目を気にしながらも、学校とか言う社会縮図に不満と鬱憤を溜め込んでいた。
中学生の時、学級委員長が二人いて、男子生徒がリーダーとして引っ張り、女子生徒が書記をやる構図にしょうがないと我慢していた。けど、本当は僕もみんなの前で発表したかった。
陸上部だったから下半身を鍛えた結果、足と太ももが燻製ハムみたいだったのを、母にからかわれて気にしていた。
生理の時、知識がなくて、辛いのは弱いからと無理やり部活を続けていた。ついでに最近まで、生理の薬はできるだけ飲まない方がいいと思ってた。
僕は女の子として生まれたことのデメリットをなんとなく諦めていたのかもしれない。これが普通で、我慢することが正しい、と。

わきまえない人たちにわきまえないでいいと思えた時、僕は変わった

それと僕は大きい音と誰かが怒られている状況が苦手だった。
同じクラスの男の子が学校で鬼ごっこを始めた時、机とか置いてる鞄とかぐっちゃぐちゃにかき乱して走りながら、暴言を吐いているような教室。鬼ごっこ自体はよくある光景だったし、我慢することが当たり前になっていた僕は友達と喋ったり、寝たりして見ないようにしていた。
けど一度、その男の子たちが僕にぶつかってきたことがあった。彼のひじかうでかがお腹に刺さって、「痛っ」とかなんとか言ったのを彼が横目で見て、鬼ごっこを続けながら「あっ」って呟いてまあいいかって感じで走りだした。
あ、謝ることもしないんだ。その時、なんでこんな人たちの目を気にしてたんだろうなって思って、もう我慢するのやめようって決めた。わきまえない人たちにわきまえないでいいやって思った。

そこから様々なことに対して、僕は他人に迷惑をかけなければいいと思っている。それから教室中で鳴っていた机がぶつかる音や罵声は自分の耳に届くが、自分のものではなくなった。いまだに大きい音や怒号は苦手ではあるが、それなりにうまく付き合っていけるようになっている。
今思えばその時から、僕はちょっと変わったのかもしれない。

一番変わったのは進路に対しての考え方。僕は自分が好きな文学や日本語の世界に入ろうと思うことができた。それまでずっと視野に入れていなかった女子大への進学を考えるようになった。
僕の進路も、わきまえない女になったことで変わったのかもしれない。

女子大に入り、やりたいことにありつくために決めた、4つのルール

新型コロナウイルスが流行し始めてから、僕はもっとわきまえないようになった。
自粛ムード真っ只の中、大学生になった僕は「大学生になったのに、何もできていない」という焦りを感じていたことから、無駄な時間を過ごしてたまるかという気持ちがあった。
そこで僕は自分でルールを作った。わきまえない女になるためのルールである。

その一、好きなものは好きと言うこと。
その二、好奇心と情報収集を忘れないこと。
その三、行動できることがあれば、できるだけ早くやること。
その四、やりたいことはやりたいと、できるだけたくさんの人に伝えること。

できるだけ前向きな状態で、やりたいことにありつくために考えたルール。最低限として作ったルールだったが、このルールは思ったよりも僕に合っていたらしい。
「僕は文章を書くことが好きです。SNSに自分の書いた文章を投稿し始めました、見てください。着物が着てみたいので、着付けを教えてください。文章を書く仕事がしたいです」

一歩間違えればわがままに捉えられかねないこれらの発言は、女子大では割と高評価されることが多かった。
「文章見たよ。面白いね」
「着物か、かっこいいね」
「エッセイとか書いてみない?」
もらった前向きな言葉たち。
「こんな賞やってるよ」
「このサイト、エッセイ募集してるよ」
このルールを続けながら、好きなことややりたいことを伝えることは情報収集の近道だということも知った。たくさんの情報と応援は、僕がこの女子大というわきまえない女が愛される世界で得た大事なもの。これからも手放せそうにない。

「女の子として生まれたデメリット」を感じても、ルールは崩さない

けれども僕がいる女子大と社会が違うことは知ってる。これから先、例えば就職して社会に出た時、世の女性たちが今まで受けてきた「女の子として生まれたことのデメリット」を感じるかもしれない。
それでも、僕はわきまえない女でいたい。女子大で得た自分のルールを崩す必要はないと思っている。それは決して簡単じゃないかも。
でも、やりたいと思ったり好きだと思った気持ちまで我慢したくない。僕が好きなんだからいいじゃん。

着物を着て、次のやりたいことの話をする。
展覧会がしたい。僕の大学では、たくさんの生徒たちが作品を作っている。写真、絵画、ニューメディア、映像、アニメーション、文学・言語。各々が好きなことをしている。だから、みんなが好きなことを発表できる場を作りたいと思った。
かつて、僕が我慢しなくなったように、この女子大ではわきまえないでいいと伝えたい。