大学生の時、私は学費を自分で払っていた。
奨学金が「借金」だから、という理由だった。
コロナ禍の今、私はあの時の決断をした自分に感謝している。
大学進学のため、奨学金の申請をした。審査は意外と厳しかった
奨学金制度があるというのは、高校3年生になれば恐らくいろんな学校で聞かされる話だろう。かくいう私もその中の一人で、高校時代よりも借りやすくなるだとか、分割返済すればいいだとか、メリットを聞かされて奨学金を受ける方向性に気持ちは固まっていた。
成績的にも、問題はなかった。平均3.5以上の成績があれば無利子のものが借りられる。万が一、有利子であれどもそんなに高いものではないと聞かされていたのも、受けようと思った理由だった。
しかし、審査が始まって申請の要件が意外と難しいことを知った。当時の我が家は祖母と同居しており、経済的には別とはいえ関係がなかったらしい。
「おばあさまと同居ですか?お金、出してもらえないんですか?」という内容を遠回しに言われて、答えに窮した。負担をかけたくないという私の思いと、経済的条件は噛み合わないのだ、とその時はじめて知った。
そして、同時期に担任の先生に相談した。
奨学金は借金。経済的に苦しんだ経験のある担任の先生の言葉
当時の担任は、生まれる前に父親を亡くしており、大学時代になって母親を亡くした人だった。そのため経済的に苦しんだこともあるらしく、彼に相談してみたのだ。
「奨学金は、借金だよ」
東海地方出身の彼の標準語は、いつもなら関西弁に慣れた私を苛立たせるのに、なぜかその時はスッと飲み込めた。借金だよ。借金。そうなのか。
押し黙った私に、担任はさらに畳み掛けた。
「別にいいとは思う。同じクラスでも結構受ける人もいるし。だけど、両親は揃っているでしょう。その時点で世間っていうのはある程度の年収があって、大学の学費を出してもらえるものだと認識してる。たとえ、下にご兄弟がいる場合でも、関係ない。それが世間だから」
今考えれば当たり前の話だ。だけど、高校生の私には本当に衝撃的な話だった。
そうなのか。兄弟がいて、まだ学費かかるのに、それでも両親が揃っていたら経済的には裕福なのか。
当時、私の家では下の妹と弟がバレエを習っていて、コンクールなどにも出ていた。遠征費だけでもバカにならないお金が飛んでいくのだが、それでも私は別に気にならなかった。頑張っていることなら応援してあげたいというのが姉の心情というものだろう。
だけれど、一方でお金がカツカツなのだろうというのは見えていたから、裕福という認識はなかった。でも、習い事ができる時点で裕福なのだ、我が家は。
奨学金は借りないと決めた。教えてくれた担任と自分に感謝
「……バイトして、稼ぎます」
私の結論はそれだった。そっか、とこともなげに続けた担任は、いいと思うよと言った。いいと思う、というか正直私は1人の大人の経験としていうけれども、奨学金はおすすめしない。
奨学金は結局、自分が背負わないといけない借金になる。大学を出て働き出した時、月に数万円がかかる。新卒で働くとして、手取り15万円と少し、そこから生活費とか住宅費を引いていくのに、さらに数万円引かれたらどうだろう。
あの時の担任の言葉は、今痛いほどわかる。なんならコロナ禍で就職が流れたからこそ、なおさらその通りだと思う。
もちろん大学時代のアルバイトは、きつかった。転々としたし、短期バイトと長期のバイトを両方経験もした。クレームも入れられて、その処理に追われたことだってある。ただあの頃があったからサービス業のキツさもわかったし、お金を稼ぐことのしんどさもわかった。
それに、何よりも今フリーランスという不安定な経済状況で、奨学金返済がない。その事実は大きい。
あの時決断できた自分。そして、真実を教えてくれた担任。その2人に今、私は感謝している。