熱燗お願いします。
立ち飲みでひとり、お酒を飲めるようになってからもう何年経っただろう。
テーブルは自分で拭く、お酒はレジに注文に行って自分で持って来る。
飲み終わったら下げる。
混んできたら詰めてあげる。
トイレに行きたくなったら帰る。
別に寂しくはない。ただあなたと同じようにほろ酔いになりたいだけ
お店によって違いはあれど、なんらかの不文律のルールが存在し、それを飲み込み実践し愛しさえする常連さんがお店を支えている。
そんな場所に1人足を踏み込むと、一斉に視線を浴び、なんとも居心地の悪い空気を感じる。
しかしそれを悲観するわけではなく、傍観し、メニューを眺め淡々と酒とつまみを注文する。
女性が1人で飲んでいると寂しいと思われるのか、話しかけてきてくれるが、別に寂しくはない。
ただあなたと同じようにちょっとお酒を飲んで、ほろ酔いになりたいだけなのだ。
あなたの話し相手になるために来たのではない。
話し相手がほしかったら、反対側の隣のおじさんに話しかければ良いのでは?
生返事をして、スマホに視線をしばらく向けていると、話しかけるのをやめてくれる。
立ち飲みでは座りたくなったら、トイレに行きたくなったら帰る時
立ち飲みでは、座りたくなったら帰る時。トイレに行きたくなったら帰る時と聞いたことがある。
このトイレ問題、割と問題。
立ち飲みのお店にコートとバックを置いたままトイレに行く事はできない。かといって全てを持ってトイレに行くと、きれいさっぱり飲みかけの酒もツマミも片付けられてしまう。
お店の人にちょっとお手洗いに行ってきますからと声をかけて、店内のお手洗いであれば事なきを得るが、店外の離れた場所にあるお手洗いであると、戻ってきたときに席がなかったりもする。
食事の途中でお手洗いに立つことがいけないのかもしれないが、生理現象だからしょうがない。
頭でわかっていても体は言うことを聞かない。
ジャンパーじゃなくロングコートを着ているから、着たまま飲食がしづらい。しかし、それをかけるフックもハンガーもない。カバンを床に置きたくないからテーブル下の棚に入れたいのだけど、カバンの蓋は閉まらないタイプだから横向きに入れることもできない。
当たり前のことだと割り切っていたけど、声をあげてもよかったんだ
そんな不自由さを、当たり前のことだと割り切るように概念が形成されてきてしまったなと気がついたのは、ネオ立ち飲み系のおしゃれな大衆居酒屋が増えてきてから。
店内にハイレグビキニのポスターは貼られていないし、若い女性同士がアニメキャラクターのグラスで乾杯している。
おつまみは刺身や肉豆腐、モツの煮込みなど渋いラインナップなのは変わらない。
お手洗いもきれいだし、カバンやコートをかけるフックもある。
オンラインペイも使えるし、不文律のルールではなく、ちゃんとお店の人から注意事項として教えてもらえるし、紙にも書いてある。
そうか。最近はお店側がわきまえだしたんだな。
不便ですって声をあげてもよかったんだな。
それでも今日も、1人飲みに行く。
お洒落なネオ系じゃなくて、おじさんが愛して止まない不文律のあるめんどくさい方のお店に。
念のため、先にトイレに行ってから。