そう、あの日は私の決戦日だった。
2月14日、「バレンタインデー亅。
手元には、大事に抱えたチョコレート。
その中にはラブレター。
周りが浮ついてるのなんて目に入らない。
授業の話なんて上の空。
教卓に立ってる先生が好きな人だったら……なんて考えながら過ぎていく時間。
これはそんな私の初恋のお話。

釣り合わないとはわかっていても、目で追ってしまう彼のこと

私がその男性に恋をしたのは学生の頃。
通学の時のバスが一緒だった。
ある日、バスにお年を召した女性が乗ってきた。
その男性は何の迷いもなく、当然のようにその女性に席を譲ったのだ。

私はその一瞬の行動に驚いた。明らかに私と変わらない歳であろう彼がとっさに行動をしたことに、一人の人間として尊敬が出来たのだ。
これが私の彼に対する第一印象だった。

それから彼が、私と同じ学校で1つ年上だという事がわかった。
それからちょくちょく彼を目で追うようになり、彼がサッカー部であること、クラスの中心的存在であること、年上からも同級生からも年下からもモテること、先生達からも可愛がられている事を知ったのだ。

彼を目で追っているうちに、彼を考えない日がない事に気づいた。彼のことを考えるだけで胸が痛かったり、顔を見れれば嬉しかったり……。
どうやら恋に落ちてしまっていたようだ。
でも相手は学校中の人気者。
私はどっちかと言うと昼休みに本を読んでるような控えめなタイプ。
こんな私じゃ釣り合わない……。

でも日に日に想いは大きくなっていくばかりで、彼の隣で笑うのは私がいい!なんて独占欲まで出てきてしまった。

バレンタインデーの放課後、勇気を持って彼を呼び止め、チョコを渡した

そんな時、私の友人の一人がバレンタインデーの日に好きな人へチョコを渡すと聞いた。
私もその友人に感化されて、バレンタインデーにチョコを渡すと決めたのだ。

そしてバレンタインデー当日。
朝から変に緊張してしまって、何故か家の中をウロチョロ。いつもは10分程で済ませていた準備。それがこの日はいつもの何倍もの時間がかかってしまった。
そして私はキレイに前髪を整えて家を出発した。
チョコを渡すのは放課後にしようと決めていた。だから学校に着いてから放課後までの時間が短いようで長いようで……。一人だけ、浮き足立っていた。

そして時間が経ち、とうとう放課後になってしまった。
いざ、決戦の時!!
私はチョコを持って彼のクラス前の廊下で彼が出てくるのを待った。

そして、彼が友人と出てくるのが見えた。
私は意を決して彼を呼び止めた。
「あ、あの……!チョコ、作ったので良かったら食べて下さい!!亅
彼は一瞬、驚いていたがニコッと微笑み、「ありがとう亅とひとこと言って、チョコを受け取ってくれた。
私はその時の彼の微笑みを今でも忘れたことなんてない。まるで王子様のような微笑みだったのだ。

一部始終を見ていた私の友人は、
「すごい!すごいよ!!渡せて良かったね!!亅
と褒めてくれた。
私も受け取ってくれた事が嬉しくて、その日は寝る事が出来なかった。
でも、その時の私は知りもしなかったのだ、これから地獄の始まりだと……。

思わぬ物語の展開。こんなことになっても諦めない

次の日の朝、登校すると私のクラスの前に尋常じゃない人だかり。
嫌な予感がした。
「あ!いたぞ!●●にチョコ渡したやつ!!亅

なんで気づかなかったんだろう。相手は学校中の人気者。こんな目立たない私がチョコを渡したら目の敵にされるなんて分かる事じゃないか。

それからだった。私に対する嫌がらせが始まったのだった。
特に年上からの嫌がらせは酷かった。
「死ね亅「ブス亅なんて悪口は日常茶飯事。
教科書をゴミ箱に捨てられてたり、机の上に落書きをされていた事もあった。
さすがにこれは酷いと担任の先生が職員の緊急会議を開いてくれたが、それでも嫌がらせは一向におさまらない。

でも「恋は盲目」……。今、思えば良く出来た言葉だと思う。
毎日嫌がらせにあいながらも、まだその彼の事が好きでメアドを渡したりと猛アタックしていた。
が、しかし……そのメアドも女性の方に回り、嫌がらせのメールが来るだけだった。
ホワイトデーのお返しもなく、第三者から見れば好意がないのははっきり分かるのに、それでも諦めきれないでいた。
彼がいつかは好きになってくれる事を願いながら過ごす毎日だった。
でも、そんな願いは叶わず、いつの間にか彼は卒業し、離ればなれになってしまった。
私の初恋は叶わなかったのだ。

あの頃を振り返ると、きちんと「好き」を伝えられていなかった

あの時、ラブレターに書いた、「応援しています」。
これは、私の精一杯の「大好きです」。
そして最後に手を震わせながら書いた電話番号。
これは、私の精一杯の「連絡下さい」。
今、思えばきちんと「好き」だなんて伝えてない。
チョコを渡せば、連絡先を渡せば気持ちは伝わるもんだと思ってた。
きちんと伝えるべきだったんだな。素直に。

あの時の彼に伝えたい。
ちゃんと「好きです」と伝えていたら、貴方の心は動いていましたか?貴方の瞳の中に、少しでも私はいましたか?

今でも忘れられずにいる私はよっぽどバカなのだろうか?
私はいつになったら、この初恋を想い出にできる時がやって来るのだろう?