高校生の頃、私はいじめを受けていた。
“いじめ”と言っていいのか分からないけど、すごく辛かった。
「やめて」と言えずにトイレで泣く毎日。いじられキャラだった私
いじられキャラとして毎日、いじられた。
私がすることなすことにケチをつけられ、鼻で笑われる。
そういうことをする奴は大抵、頭が働くので、周りの人を巻き込んで、私をいじった。
私も「やめて」と言えずに、トイレで泣く日が続いた。
大好きだった部活も、あいつと同じだったから逃げ場なんてなかった。
少しでもしんどそうな顔をすると
「稲葉って私たちのこと嫌いなんだって~酷くない?」
と周りに言いふらされた。
その度に、
「そんなことないよ~」
とヘラヘラする自分。
いつしか、私は本当に自分がどう思っているのかわからなくなっていった。
バレンタインデー。恒例の手作りお菓子を部活の先輩たちにも渡した
そんなある日のこと。
その日はバレンタインデーだった。
うちの部活では、大量に手作りのお菓子を作って振る舞う風習があった。
私も大量にクッキーを作って学校に持っていった。
同学年には簡単に渡せた。
だけど、問題があまり交流がない先輩たち。
渡すタイミングが分からなくて、結局放課後、部活が終わってみんな帰ってしまった。
このままじゃ渡せない。
焦って、最後に残っていた先輩に手作りのクッキーが大量に入ったタッパーごと渡してしまった。
「これ、時間がある時にどうぞ!」
失礼だったかなと少し落ち込んだ。
でもちゃんといつも通りヘラヘラとした笑顔で渡せたはずだ。
数日経って、タッパーが戻ってきた。
「みんなで食べたよ~美味しかった!ありがとね」
ニコニコしてタッパーを渡される。
よかった、そう胸を撫で下ろしてカバンにしまった。
誰にも分ってもらえないと思っていた悩みは、先輩が気づいてくれてた
家に帰って、タッパーを開けるとタッパーはしっかりと洗ってあった。
その中に入っていた2つ折りの紙。
私は頭を傾げてそれを開いた。
そこには。
「稲葉ちゃんへ
お菓子ありがとう。とっても美味しかったよ。たまにぼーとしてるみたいだけど元気?悩みとかなかったらいいけど…いつでも聞くから溜め込まないでね」
びっくりして何度も読み返してしまった。
先輩とはほとんど喋ったこともない。
廊下で挨拶するだけ。
部活も隣のコートでほとんど一緒にプレーなんてした事がなかった。
「なんで……っ」
私は涙が止まらなかった。
ずっと誰にもわかって貰えないと思ってた。
私が苦しんでること、私が本当は笑えないこと。理解してくれる人なんてこの世に一人もいないんだと思ってた。
それなのに。
こんなに近くにいた。
嬉しかった。
悩みなんて相談しなくても、この手紙だけで私はもう救われていた。
あの手紙で確実に前を向けた私が、ありきりだけど精一杯伝えた感謝
お礼が言いたかった。だけど。
私は返事を書けなかった。
怖かった。
もし、私の本当の気持ちを話して部活中に広まったら?
今より辛くなるんじゃないかと、この段階でも恐れていた。
こんなに優しくしてくれた先輩をまだ信じることが出来ない弱い自分。
さし伸ばされた手を私は掴めなかった。
結局、先輩はそのまま卒業された。
先輩の手紙の返事を私は最後まで書けなかったけど。
私はあの手紙で確実に前を向いていた。
卒業の日、私は先輩に駆け寄った。
「卒業おめでとうございます。……本当にありがとうございました」
ありきたりな言葉。
あの時、私が伝えたかった大きな感謝は、先輩に伝わっていたのだろうか。
分からないけれど、その時先輩はいつものように優しく笑っていた気がする。