「久々にみんなで飲みに行かないか?」
上司がそんな風に言ってきたのは、クリスマスの少し前だった。
近年は新型コロナウイルスの影響で飲み会はご法度とされていたが、2021年12月頃の東京は感染者が2桁台と減少してきたため、飲み会に対する規制が弱まってきていた。

職場の飲み会に参加したくなかった。楽しい予定が待っていたから

飲み会好きの上司は、このタイミングを逃すまいと、事業部全員に参加を促して開催日を設定した。でも私は、その飲み会にどうしても参加したくなかった。
理由は、これから年末にかけて楽しい予定が詰まっていたからだ。

まずは大好きなアーティストのライブ。当たったら死ぬとまで言われたプレミアチケットを、私は手に入れることに成功していた。
飲み会に行ってうっかりコロナになんてかかったら、このチケットを無駄にすることになる。そしたらきっと、死ぬほど後悔するだろう。
久々に高校の頃の友達と会う約束もしているし、ずっと帰れていない実家にだって帰省したい。
上司の顔色を伺って飲み会に参加したら、この楽しい予定を全て棒に振ってしまう可能性だってあるのだ。慎重すぎると言われるかも知れないし、大袈裟だと笑われるかも知れない。でもリスクのある行動はなるべく避けたかった。

わきまえない女かも知れないけど、プライベートの予定の方が大切

「すみません、私は不参加でお願いします」。思い切って私は、上司に直接申し出た。
空気が読めない女かも知れない。わきまえない女かも知れない。でも私は、毎日会っている上司とリスクを背負って飲みに行くよりも、プライベートの予定の方が大切なのだ。

事業部の中で強い権力を持っている上司の言うことは絶対で、私の申し出を聞いた全員が耳を疑ったことだろう。でも私はどうしてもここで合わせて、リスクを背負う訳にはいかなかった。

この人には毎日会うが、ライブは1回しかない。友達とだってこのチャンスを逃したら今度いつ会えるか分からないし、しばらく帰れていない実家に戻って家族にも会いたい。つまらない気を遣ってなどいられないのだ。

私の不参加を聞いた上司は顔をしかめたが、この時期に飲み会を強制することは出来ないので、渋々申し出を受け入れた。後日、飲み会の時の話を楽しそうにする同僚を見ても、全く後悔しなかった。

安心して楽しい年末を過ごせたから空気を読まなくて良かった

しばらく飲み会不参加のことで嫌味を言われても、気にもならなかった。そもそも飲み会に行かなかっただけで嫌味を言ってくるような人は、相手にする価値なんてないのだ。

確かに働く上でコミュニケーションは大切かも知れないが、それは無理してコロナに罹患するリスクを背負ってまでするものではないと思う。
私は飲み会に行かなくても、普段からのコミュニケーションを大切にしているから問題ない。現に飲み会に行かなくても、仕事に何の支障もない。

無事にライブにも行けて、友達にも会えて、帰省も出来た。安心して楽しい年末を過ごせたので、空気を読まなくて良かったと思った。
上司に合わせることが全てじゃない。仕事以外のことに従う必要なんてない。
私は私。何が大切なのかは、私が決める。