「髪切ったら、先輩に大人っぽくなったねって言われた…とっくに大人なんだけど~(笑)」
自撮りと共にアップされたインスタグラムの投稿を見て、白けた気持ちになった。
そういえばこの子、前も「髪を切ったら小学生に戻りました…(笑)」って投稿してたな。
いいねを押さずに画面をスクロールした。
「大人だね~私には無理~」と言う彼女たちに苛立った
私たち、あと2年で30歳。とっくに立派な大人だ。
内実共に大人になった。仕事では後輩ができて、戦力として数えられるようになった。
同級生たちは結婚、出産、離婚、転職、と様々なステップを踏んでいる。マンションを買う算段を立てたり、一人暮らしを始めたり。自分がどんな人生を送りたいか考え始めている。
もちろん、彼女だってそうだ。彼女が自立した大人の女性だということはよく知っている。
大好きな友達なのに、こんなことでイラッとする自分が嫌だ。新しい髪型も似合っていて可愛い。微笑ましく思って、いいねを押してあげればいいのに、と自分に対して思う。
何がそんなに嫌なんだろう。
そういえば前にも、友達の言葉を聞いて苛立ったことがあった。
「ふみちゃんはすごいね、一人暮らしなんて私にはできないから、大人だよね」
高校の友人は卒業後、全国に散った。地元にはあまりにも選択肢が少なかったから、必然だった。18歳になったら一人暮らしをするのが、当たり前だと思っていた。
でも、私立の女子大に進学した私に待っていたのは、同級生の半分、いやそれ以上を実家住みが占めるコミュニティだった。
彼女たちは基本的に裕福で、娘として両親に愛されていて、いつまでも安心して子どもでいるように私には見えた。
無理に大人になろうとした。そのひずみは至る所で現れた
とても素直で優しくて、一人暮らししてるなんてすごい!大人!と言ってくれるのだ。
そして「私にはできない~」「親にも無理だって言われる」と無邪気に言うのだ。
私はニコニコしながら、「そうだよね。親御さんも娘がいてくれたほうが嬉しいよね」と当たり障りないことを答える。
それは本心だったが、心の中では「私だって、実家から大学や就職先を選べる人生がよかった」と思っていた。
私は、自分の心や自己管理能力の成熟を無視して、無理して大人になろうとしているように感じていた。
そのひずみは至るところで現れた。部屋を掃除できず、アレルギーが悪化した。耳の後ろに円形脱毛症ができた。上の奥歯がひどい虫歯になって、歯医者の先生に驚かれた。母親に電話するのが依存のようになった。ほぼ毎日泣いていて、よく眠れなかった。風邪も頻繁にひいた。
それでも、そんなことは人に言えなかった。泣き言を言っても、学歴や職を捨てて田舎に帰るくらいしか選択肢がない。
一人で暮らして一人で生計を立てるのが、自分の誇りだというふりをして強がっていた。
結婚すると全て好転。苛立ちの原因は彼女たちじゃなく、自分だった
そんな中、26歳になった直後に結婚して二人暮らしを始めると、あっという間に全てが好転した。
円形脱毛症は治り、部屋はいつも綺麗でくしゃみも治り、虫歯もなく、一度も風邪をひいていない。よっぽどのことがない限り泣かない。ベッドに入って目を閉じると一瞬で眠れる。電話依存もなくなった。
今は、夫が夕食を作ってくれるから、休日に友達と遊んで帰宅するとご飯がある。そんな時、子どもに戻ったように感じて嬉しい。妻は娘じゃないけれど。
無理して大人にさせられた、という拗ねた気持ちがまだどこかに残っているから、子どもな自分を誇示するような言動をとっている人に、苛立ってしまうのだろう。
インスタを開きながら、イライラしてしまうのは友達のせいではなくて、全部自分が原因だなあ、と思った。
もういっそ、夫が作ってくれた料理の写真と一緒に「遊んで帰ってきたら夫がご飯を出してくれた!私、小学生みたい……」と投稿してみるのもいいかもしれない。人を傷つけなければ何を言ったっていいんだから。
あのとき大人のふりをし続けていた分、今度は子どもの自分を思い切り表現して、それで気が済めばいい、と思う。
そうすれば、いつか友達の投稿にも微笑んで「いいね」を押せるかもしれない。